パースモニーとは何か
パースモニーとは、同じ現象を説明できるなら、不要な仮定が少ない説明を優先するという考え方です。
科学では、説明のために見えない原因や補助的な前提を次々に足すほど、理論は複雑になります。
理論が複雑になるほど、どこが正しくてどこが誤っているのかを確かめにくくなります。
そのため科学では、まず少ない仮定で説明できるかが重視されます。
オッカムの剃刀との違い
パースモニーとオッカムの剃刀は近い概念ですが、役割は同じではありません。
オッカムの剃刀は、不要な仮定を増やさないための原則です。
一方でパースモニーは、どの理論がより少ない仮定で説明できているかをみる評価の視点です。
短く言えば、オッカムの剃刀は「余計な仮定を足すな」であり、パースモニーは「仮定の少ない理論を優先する」です。
なぜ徒手療法でパースモニーが重要になるのか
徒手療法では、変化が起きたあとに理由を説明したくなります。
そのとき、骨盤の歪み、関節のズレ、筋膜の問題、姿勢の乱れ、筋緊張の偏りなどを次々に足していくと、説明は豊かに見えても、理論としては多くの仮定に依存する形になります。
しかも、それらの仮定の多くが直接確認しにくい場合、理論は検証しにくくなります。
ここで重要なのは、説明が細かいことと、説明が妥当であることは同じではないという点です。
徒手療法は仮定を増やしやすい
徒手療法は、施術者の手で身体に触れ、その前後で患者様の感覚や動きが変化する領域です。
このような領域では、変化そのものは観察できても、その変化がなぜ起きたのかは直ちには分かりません。
それにもかかわらず臨床では、触れた部位に意味を与え、そこで起きたと考えたい変化を理論化しやすくなります。
その結果、実際には検証されていない説明が、経験と結びついて強く信じられることがあります。
パースモニーは、この増えすぎた説明をいったん立ち止まって見直すための視点です。
よりパースモニーの高い説明とは何か
パースモニーが高い説明とは、浅い説明ではありません。
必要な現象を十分に含みながら、余計な仮定を増やさない説明です。
たとえば徒手療法の効果を、複数の局所構造異常を前提に説明するよりも、感覚入力、末梢神経の状態と入力、中枢神経での処理、予測、情動、文脈、期待といった既知の神経生理学で説明する方が、理論として簡潔である場合があります。
これは現象を単純化しているのではなく、すでに分かっている生理学で統合しているということです。
介入が多いことと理論が正しいことは別である
徒手療法では、強い刺激、多くの手順、細かい評価、複雑な説明があるほど、何か高度なことをしているように見える場合があります。
しかし介入量の多さは、理論の正しさを保証しません。
変化が起きたとしても、それが複雑な局所理論を支持しているのか、それとも神経系が入力をどう受け取ったかで説明できるのかは分けて考える必要があります。
パースモニーの視点は、手技の多さではなく、どの説明が最も少ない仮定で臨床現象を説明できるかを問います。
パースモニーは徒手療法の理論評価そのものにつながる
徒手療法で大切なのは、変化を語ることではなく、その説明がどこまで妥当かを吟味することです。
理論評価では、反証可能性、再現性、妥当性、生物学的妥当性などが問題になりますが、パースモニーはその土台にある視点の一つです。
仮定が多すぎる理論は、それだけで検証が難しくなり、失敗したときに後づけの説明も作りやすくなります。
反対に、少ない仮定で現象を説明できる理論は、どこを検証すべきかが明確になります。
そのためパースモニーは、徒手療法を神秘的な説明から遠ざけ、科学的に扱える理論へ近づけるための重要な基準になります。
結論|パースモニーは徒手療法の説明を絞る視点
パースモニーとは、不要な仮定を増やさずに現象を説明しようとする科学の基本的な視点です。
オッカムの剃刀が不要な仮定を削るための原則であるのに対し、パースモニーは、より少ない仮定で説明できる理論を優先するための評価基準です。
徒手療法では、変化のあとに説明を足していくことが容易です。
だからこそ、説明の多さや複雑さに引かれるのではなく、その理論がどれだけ少ない仮定で臨床現象を説明できるかを見る必要があります。
その視点があると、もっともらしい説明と、科学的に吟味できる説明を分けて考えられます。
関連コラム|クリティカルシンキングを深く理解する

