侵害受容性疼痛とは何か
痛みは、すべて同じメカニズムで生じるわけではありません。
神経科学やペインサイエンスでは、痛みは発生メカニズムによって分類されます。
現在よく用いられている分類では、痛みは次の3つに整理されます。
・侵害受容性疼痛
・神経障害性疼痛
・痛覚変調性疼痛
侵害受容性疼痛は、この中でも最も基本的な疼痛分類の一つです。
主に組織損傷や炎症、あるいは損傷の脅威に関連して侵害受容器が活性化することで生じる痛みです。
なお、これら3つの疼痛分類は完全に別々の箱ではありません。
実際の臨床では、それぞれの要素が重なり合い、グラデーションのように連続して存在することがあります。
侵害受容性疼痛の定義
侵害受容性疼痛とは、主に筋、腱、靱帯、関節、皮膚、内臓などの組織損傷や炎症に関連した侵害受容器が活性化することで生じる痛みです。
ここで重要なのは、体性感覚系の神経そのものの病変や疾患が主となる神経障害性疼痛とは区別して考えることです。
侵害受容器は、皮膚、筋肉、関節、内臓などに分布する感覚受容器であり、有害刺激や組織損傷に関連した入力を検出します。
その情報は末梢神経を通って脊髄や脳へ伝達され、神経系で処理されることで痛みとして知覚されます。
つまり、末梢から中枢へ伝わるのは痛みそのものではなく、侵害受容信号です。
また、侵害受容器は皮膚、筋肉、関節、内臓だけでなく、神経幹や神経鞘の侵害受容性支配とも関係します。
そのため、神経の絞扼や機械的ストレスでは、神経内・神経鞘の侵害受容性線維が刺激されることによる侵害受容性疼痛の要素と、神経そのものの病変や機能障害による神経障害性疼痛の要素が重なることがあります。
体性感覚系の神経そのものの病変や疾患としては、手根管症候群のような絞扼性末梢神経障害、糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、外傷後の末梢神経損傷、三叉神経痛、神経根障害の一部、さらに脳卒中後疼痛や脊髄損傷後疼痛のような中枢神経系の病変が挙げられます。
急性期でよくみられる侵害受容性疼痛
侵害受容性疼痛は、急性期にもっとも遭遇しやすい疼痛機序の一つです。
例えば次のような状態が挙げられます。
・足関節捻挫
・打撲
・筋や靱帯の損傷
・術後早期の疼痛
これらに共通しているのは、組織への負荷や損傷、炎症反応に関連して侵害受容器が活性化することです。
その結果、侵害受容信号が末梢神経を通じて神経系へ伝達され、痛みが知覚されます。
急性期の疼痛を考えるうえで、まず侵害受容性疼痛を基盤として理解することは重要です。
侵害受容性疼痛と炎症
侵害受容性疼痛では、炎症が重要な役割を持つことがあります。
組織損傷や炎症が起こると、サイトカイン、プロスタグランジン、ブラジキニンなどの化学物質が放出されます。
これらの物質は侵害受容器の感受性を変化させ、侵害刺激に対する反応を増強することがあります。
このような変化は末梢性感作と呼ばれます。
炎症が続くと、侵害受容器の反応性が高い状態が持続することがあります。
さらに慢性化した疼痛では、侵害受容性疼痛だけで全体を説明できず、中枢性感作など他の機序が重なることもあります。
侵害受容性疼痛と他の疼痛分類
侵害受容性疼痛は、侵害受容器の活性化を中心に理解する疼痛分類です。
これに対して神経障害性疼痛は、体性感覚系の神経の病変や疾患によって生じる痛みです。
また、痛覚変調性疼痛は、明確な組織損傷や明確な神経損傷だけでは十分に説明できない神経系の情報処理の変化に注目する分類です。
つまり3分類の違いは、どこに主な問題設定を置くかにあります。
ただし実際の臨床では、これらが単独できれいに分かれるとは限りません。
慢性疼痛では、侵害受容性疼痛を土台として、神経障害性疼痛や痛覚変調性疼痛の要素が重なることがあります。
結論|侵害受容性疼痛をどう理解するか
侵害受容性疼痛は、組織損傷や炎症に関連して侵害受容器が活性化することで生じる痛みです。
このとき神経系へ伝わるのは、痛みそのものではなく侵害受容信号です。
また炎症により侵害受容器の感受性が変化し、末梢性感作が生じることがあります。
さらに時間経過の中では、神経障害性疼痛や痛覚変調性疼痛の要素が重なることもあります。
そのため侵害受容性疼痛は、急性期に多い基本的な疼痛機序であると同時に、慢性疼痛の土台にもなりうる痛みとして理解することが重要です。
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