新生血管とは何か|腱症で語られる「もやもや血管」の正体
新生血管とは、既存の正常な血管網とは別に、組織変化の中で新たに増えてくる血管のことです。
腱症では、超音波、とくにドップラーで腱や腱周囲に血流シグナルがみられると、それが新生血管として解釈されることがあります。
これは単に血管があるという意味ではなく、本来は血流シグナルが目立ちにくい腱内や腱周囲に、組織変化に伴う血管が入り込んでいる可能性を示す所見です。
重要なのは、正常な腱では目立ちにくい領域に血管が増え、配列の乱れを伴って観察されることです。
そのため、腱症でみられる新生血管は、成熟した安定した血管というより、変性と修復反応が混在する過程で現れる血管として理解する方が自然です。
さらに、研究では血管だけでなく感覚神経線維の増加、いわゆる神経血管束としての変化も報告されてきました。
Substance P や CGRP などの神経ペプチドの増加も示されており、痛みとの関係は、新生血管そのものというより神経血管束の変化として考えられてきました。
ただし、神経線維が増えていることと、それがそのまま今ある痛みの主因であることは同じではありません。
腱炎と腱症はどう違うのか|足底筋膜炎も含めた現在の視点
腱炎という語は炎症を強く連想させますが、長引く例の多くでは、修復不全、コラーゲン配列の乱れ、基質変化、負荷耐性低下を含む腱症として理解する方が自然です。
足底筋膜炎も同様で、慢性例では炎症より変性優位とする考え方が強く、足底筋膜症あるいは Fasciosis に近い捉え方が現在の視点に合います。
つまり、新生血管は炎症だけの証拠ではなく、変性と修復反応が混在した組織変化の中で位置づける方が妥当です。
このため、画像でみえる所見をすべて炎症で説明するのではなく、変性、修復反応、負荷耐性低下を含む全体像として捉える必要があります。
新生血管があっても痛みがない人はいるのか|最初に押さえたい結論
最初に結論を言うと、新生血管があっても痛みがない人はいます。
とくにアキレス腱や膝蓋腱では、無症候のアスリートに超音波異常がみられることがあり、その中には新生血管やドップラー血流を含む所見もあります。
無症候でもみられる所見
無症候アスリートの腱の所見をまとめた研究では、症状がない段階でも腱障害様の画像変化が一定数みられることが示されています。
別の言い方をすれば、新生血管は「見えたら即異常」「見えたら即痛みの原因」とは言えない所見です。
下記の論文では、無症候アスリートの回旋筋腱板、アキレス腱、膝蓋腱に、腱障害、部分断裂、完全断裂、新生血管、低エコー、腱肥厚などの変化がみられることが整理されています。
つまり、この結果からは、画像でみえる変化の存在と、今ある症状の存在は切り分けて考える必要があります。
「このような無症状の変化にどのように対処、または介入するのが最善かについての証拠は限られている。」
Significance of Asymptomatic Tendon Pathology in Athletes
Splittgerber LE, et al.
したがって、新生血管は見える所見ではあっても、それだけで今ある痛みの有無を決める所見ではありません。
また別の研究では、より大規模に無症候ランナーのアキレス腱を調べ、新生血管が健康な腱にもかなりの頻度で検出されることが示されています。
この研究では、953人の長距離ランナー、1906本のアキレス腱を超音波とパワードップラーで評価し、現在または過去に症状がある群で肥厚、低エコー病変、新生血管が有意に多かった一方、無症候ランナーでも高解像度パワードップラーでは35%に新生血管が検出されました。
少なくとも、この数字は「新生血管があるから痛い」という単純な因果の置き方に無理があることを示しています。
「よくある誤解とは異なり、最新のパワードップラー装置を用いると、無症状のランナーの腱にも新生血管がしばしば認められる。したがって、無症状の腱における個々の微小血管の病理学的意義については、慎重に検討する必要がある。」
Achilles Tendon Power Doppler Sonography in 953 Long Distance Runners
Hirschmüller A, et al.
関連を示す研究もある
一方で、新生血管と痛みの関連を示す研究があるのも事実です。
アキレス腱症を対象にした研究では、新生血管の量が多いほど痛みや機能評価と関連するという結果も出ています。
この研究では、27名37本の症候性アキレス腱を3Dパワードップラーで調べ、97.3%に新生血管が認められ、55.6%では肥厚部位との関連もみられました。
さらに、VAS は新生血管の体積や正規化指標と正の相関を示しており、新生血管が痛みに関与する可能性は完全には否定できません。
ただし、関連があることと、それが痛みの主因であることは別です。
「アキレス腱の97.3%に新生血管が認められた。これらのアキレス腱の55.6%において、新生血管形成は肥厚部位と関連していた。」
The volume of the neovascularity and its clinical implications in Achilles tendinopathy
Yang X, et al.
部位によって結果はそろわない
この問題をさらに複雑にしているのは、部位が変わると結果が一貫しないことです。
肩腱板では、新生血管の頻度自体が症候群と無症候群でほとんど変わらないという研究もあります。
肩腱板腱症患者20人と無症候コントロール群20人を比較した研究では、新生血管は患者群で30%、無症候群で25%に認められ、群間差は有意ではありませんでした(P = 0.72)。
つまり、少なくとも肩腱板では、新生血管の有無だけで症状の有無を説明するのは難しいと考えられます。
「著者らは、腱板腱障害患者(30%)と無症状対照群(25%)の間で新生血管形成率に差がないことを発見した。
この研究は、腱板腱障害患者において、新生血管形成は症候性腱障害の存在とは関連がないことを示唆している。
新生血管形成は、腱板腱障害患者の臨床評価に役立つ超音波検査所見とはならない可能性がある。」
Neovascularization prevalence in the supraspinatus of patients with rotator cuff tendinopathy and asymptomatic controls
Kardouni JR, et al.
将来予測にも限界がある
新生血管を含む超音波所見は、将来の痛みをどこまで予測できるのかという視点でも検討されています。
ここでも、相対リスクは上がる一方で、陽性的中率は高くないという点が重要です。
この系統的レビューとメタ解析では、16件の研究、アキレス腱810本、膝蓋腱1156本が対象となりました。
異常所見がある腱では将来の疼痛リスク比がアキレス腱で3.96、膝蓋腱で6.07と上がっていましたが、陽性予測値はどちらも27.2%にとどまりました。
つまり、所見がある群のほうが平均的なリスクは高くても、個々の患者様について「この所見があるから今後痛くなる」と強く言える水準ではありません。
「この系統的レビューとメタ分析により、無症状のアキレス腱または膝蓋腱の超音波スキャンは、将来の痛みの発生に対する陽性予測値は低いが、陰性予測値は高いことが明らかになった。」
Sonographic Assessment of Asymptomatic Patellar and Achilles Tendons to Predict Future Pain: A Systematic Review and Meta-analysis
Cushman DM, et al.
筋膜や腱では修復後も所見が残るのか|残存所見としての見方と限界
筋膜や腱では、症状が軽くなったあとも画像所見が残ることがあります。
これは、新生血管を含む構造変化が、変性と修復反応が混在した過程の一部として残っている可能性を示します。
ただし、それを単純に治ったあとの無害な名残と決めつけることもできません。逆に、残っているから今もそれが主因と断定することもできません。
妥当なのは、新生血管を変性と修復反応が混在した過程の一所見として捉え、その所見が本当に現在の症状分布や機能低下を説明しているのかを別に検討することです。
では新生血管は何を意味するのか|所見と原因を分けて考える
ここで大事なのは、所見と原因を分けて考えることです。
新生血管は、組織で何らかの変化が起きていることを示す所見かもしれません。しかし、その所見がそのまま現在の痛みの主因であるとは限りません。
関連を示す研究はありますが、無症候例でみられる研究、部位差が大きい研究、将来予測に限界がある研究も並んでいます。
この並びをみると、新生血管は「腱に変化があること」を示す手がかりにはなっても、それだけで「今ある痛みの原因」を説明する指標にはなりにくいと考えられます。
結論|新生血管は痛みを単独で説明できない
新生血管は、腱症の痛みと関連する可能性がある所見です。
一方で、新生血管があっても痛みがない人は実際におり、部位によっては症候群と無症候群で差が乏しい研究もあります。さらに、将来予測の研究でも、相対リスクは上がっても陽性的中率は高くありません。
したがって、新生血管の存在だけで現在の痛みを説明することはできません。
新生血管は、変性と修復反応が混在した組織変化の一所見として慎重に位置づけるべきであり、痛みの主因と決めつける根拠は弱いです。
臨床では、見えた所見そのものよりも、症状分布、増悪条件、機能低下、負荷への反応を含めた全体像を優先して考える必要があります。
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