長胸神経麻痺とは何か|基本像を確認する
長胸神経は、肩甲骨を胸郭に保ち、上方回旋を支える前鋸筋を支配する運動神経です。
長胸神経が障害されると前鋸筋の機能が低下し、翼状肩甲や肩の挙上困難が生じます。
また、長胸神経は中斜角筋周囲、鎖骨下から第1・第2肋骨付近、さらに前鋸筋へ入る部位で、牽引や絞扼の影響を受けることがあります。
この神経は長く、胸郭外側を表層寄りに下行するため、反復するオーバーヘッド動作、重い荷物を肩に掛けること、圧迫などでも障害されることがあります。
整形外科領域では、こうした訴えは腱板損傷やインピンジメント症候群として理解されやすく、長胸神経麻痺は見落とされやすい病態です。
長胸神経麻痺の研究知見|長胸神経障害は翼状肩甲と挙上障害の原因となる
この論文では、スポーツ活動後に生じた長胸神経単神経障害の症例を報告しています。
肩の痛みや機能障害、前鋸筋の筋力低下に伴う肩甲骨の翼状化がみられ、診断は筋電図検査で確定されました。
著者らは、運動に伴う長胸神経の伸展損傷を想定しており、保存的治療で全例が良好に改善したと述べています。
別の研究では、長胸神経単独麻痺に対する外科的判断を後ろ向きに検討しています。
筋電図所見は術中の神経刺激所見と一致しない例が多く、術前の筋電図だけでは判断が難しいことが示されました。
著者らは、治療方針の決定には術中の神経刺激が重要であり、必要に応じた神経移行術で良好な回復が得られると述べています。
長胸神経麻痺はなぜ見落とされるのか|画像所見だけで原因は決められない
翼状肩甲や肩の挙上困難では、腱板障害や肩峰下滑液包の異常が疑われることがあります。実際、画像で腱板断裂、滑液包の肥厚、インピンジメント関連所見がみつかる場合もあります。
ただし、こうした画像所見だけで症状との関係を決めることはできません。
画像所見を根拠に局所組織だけへ注意が向くと、長胸神経障害や前鋸筋の出力低下といった末梢神経由来の問題が見落とされることがあります。
そのため、画像は参考情報として扱いながら、肩甲骨の動きや前鋸筋の機能評価をあわせて検討することが重要です。
翼状肩甲・肩の挙上困難を末梢神経からどうみるか|長胸神経と前鋸筋機能から読み直す
この症状を末梢神経からみるときに重要なのは、肩甲骨の位置異常と動作による変化です。
壁を押したときに肩甲骨内側縁が浮き上がる、挙上で上方回旋が崩れる、反復保持で前鋸筋の出力低下が目立つといった所見は、長胸神経麻痺を考える手がかりになります。
長胸神経は感覚神経ではなく運動神経であるため、しびれの分布よりも、前鋸筋の出力、肩甲骨の安定性、挙上時の肩甲帯の動きをあわせてみる必要があります。
肩関節局所の疼痛だけでまとめず、肩甲骨の運動戦略まで含めて読むことで、見立ては大きく変わります。
結論
長胸神経麻痺では、翼状肩甲や肩の挙上困難を腱板や滑液包といった肩関節局所の所見だけで説明すると、長胸神経障害は見落とされます。
画像所見だけで決めず、肩甲骨の位置、壁押し動作での変化、挙上時の肩甲帯の崩れ、前鋸筋の出力低下をあわせて評価することが重要です。
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