線形と非線形とは何か|徒手療法を再検討するための基本視点

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徒手療法はなぜ線形の説明に偏ってきたのか

徒手療法では長いあいだ、入力を加えれば、その大きさに応じて結果が出るという発想が中心でした。

→強く押せば深く届く。

→深く届けば組織が変わる。

→組織が変われば症状が減る。

このような説明はわかりやすく、教えやすく、徒手の意図も示しやすいため、多くの理論で採用されてきました。

しかし、神経系も人も、そのような単純な比例関係だけでは動いていません。

同じ刺激でも、そのときの予測、不安、注意、睡眠不足、疲労、過去の経験、文脈の違いによって反応は変わります。

それにもかかわらず、徒手療法だけが線形の発想にとどまると、臨床で起きている変化を十分に説明できなくなります。

▶︎ 徒手療法の理論を吟味する

線形と非線形の違い

線形とは、入力と出力の関係が比例するという考え方です。

入力を2倍にすれば出力も2倍になり、入力を足せば出力も足し算のように増えるという見方です。

一方、非線形とは、入力と出力が綺麗には比例しない関係です。

ごく小さな入力で大きく変わることがありますし、入力を増やしても反応がほとんど変わらないこともあります。

また、ある閾値を超えたところで急に変化したり、しばらく変化が乏しいまま経過したあとで一気に変わったりすることもあります。

非線形とは法則がないということではなく、単純な比例関係では表せないということです。

線形と非線形は数学から広がった概念である

線形と非線形は、もともと数学で定義された概念です。

線形モデルは単純化しやすく、計算しやすく、予測しやすいため、物理学や工学でも広く用いられてきました。

しかし、生体では反応が頭打ちになったり、直前の状態や過去の反応の影響を受けたり、同じ刺激でも出発点によって結果が変わったりします。

そのため、生物学や神経科学では、単純な比例関係では捉えきれない現象を考えるために、非線形の視点が重要になります。

神経系も人も非線形である

神経系は、末梢からの入力だけで一方向に出力が決まる単純なものではありません。

末梢神経の状態と入力、侵害受容信号、過去の経験、予測、注意、期待、恐怖、睡眠、疲労、社会的文脈などが重なりながら、今この瞬間の出力が変わります。

そのため、同じ部位に同じように触れても、毎回同じ結果にはなりません。昨日は心地よかった接触が、今日は不快に感じることもあります。

軽い接触で大きく変わることもあれば、強い刺激を加えてもほとんど変化しないこともあります。

これは例外ではなく、神経系の通常の性質として理解した方が自然です。

人もまた、一定条件で一定の出力を返す機械ではなく、適応し、学習し、予測し、文脈に応じて反応を変える存在です。

したがって、人に触れる徒手療法も、本質的には非線形の世界を扱っていると考える方が科学的に妥当です。

▶︎ ペインサイエンスとは何か

徒手療法の線形モデルが見落としやすいこと

徒手療法の多くの理論は、形態や位置、張力、配列などの局所変化を主軸に説明してきました。

そこでは、原因が局所にあり、そこへ適切な力を加えれば一定方向に変化が起こり、その結果として症状も改善すると考えられてきました。

この発想は、刺激量、到達度、局所異常の大きさと結果を一直線に結びつけやすいという意味で、線形モデルに近い発想です。

こうした説明は一貫しているように見えても、実際の臨床では崩れる場面が少なくありません。

画像所見が強くても、症状が軽いことがあります。接触がごく軽くても、反応が大きいことがあります。局所に大きな変化を加えたとしても、患者様の体感はほとんど変わらないことがあります。

つまり、局所への入力と全体の出力は、一直線には結びついていません。

▶︎ 画像診断と痛みの関係を読む

慢性疼痛では非線形の視点が欠かせない

慢性疼痛では、とくに非線形の視点が重要です。今ある痛みは、単なる組織損傷の大きさだけでは決まりません。

末梢性感作や中枢性感作が関わると、入力の受け取り方や中枢での処理そのものが変わります。その結果、わずかな接触や動作でも強い痛みが生じることがあります。

逆に、画像や整形外科的な病態だけでは、痛みの強さや生活障害を十分に説明できないこともあります。重要なのは、慢性疼痛を非線形にみるとは、曖昧にみることではないという点です。

どの入力が、どの文脈で、どのような出力として現れているのかを考えることです。強さだけでなく、質、タイミング、予測可能性、患者様がその接触をどう意味づけるかまで含めて考える必要があります。

▶︎ 慢性疼痛とは何か

結論

線形と非線形は、数学から広がった基本概念です。

そして、神経系も人も非線形です。だからこそ、徒手療法も単純な比例関係では説明しきれません。

強い入力が大きな効果を生むとは限らず、ごく小さな接触が大きな変化につながることもあります。

徒手療法を再検討するなら、入力の強さと結果を一直線に結ぶ発想から離れる必要があります。

みるべきなのは、どれだけ強く触れたかではなく、その入力がどのような文脈で神経系に受け取られ、どのような出力として現れたかです。

 


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