変形性膝関節症とは何か|まず押さえたい基本像
変形性膝関節症は、整形外科領域でよくみられる疾患名です。
膝の痛み、こわばり、歩き始めのつらさ、階段昇降や立ち上がりでの不快感として語られることが多く、膝前面だけでなく内側や周囲へ症状が広がることもあります。
一般には、軟骨変性、加齢変化、荷重ストレス、筋力低下、肥満、炎症などで説明されます。
保存療法としては、運動療法、生活指導、体重管理、物理療法、薬物療法、徒手療法などが選択されます。
また、強い安静時痛、急速な腫脹、発熱、明らかな外傷歴、明らかな神経脱落症状がある場合は、保存的介入のみで進めず、医師の評価や画像検査を優先すべきです。
最近の論文からみた変形性膝関節症|いま押さえたい知見
変形性膝関節症では、近年も研究が続いています。
ここでは、いま確認しておきたい論点を、画像所見と症状の関係、そして構造介入の限界という流れでみていきます。
画像所見と症状は単純には一致しない
まず押さえたいのは、X線で確認される変形と膝痛が、必ずしも一対一で結びつかないことです。
画像で変形性膝関節症が認められても、全員に症状があるわけではなく、画像の異常だけで今ある痛みを説明することには限界があります。
Analysis of the discordance between radiographic changes and knee pain in osteoarthritis of the knee. Bedson, et al.
別の論文でも、痛みや機能障害の強さと、X線でみた重症度は必ずしも並行しないことが示されています。
つまり、画像上の変化が強いから症状も強い、あるいは画像上の変化が軽いから症状も軽い、という単純な理解では捉えきれないということです。
The correlation between clinical and radiological severity of osteoarthritis of the knee. Alkan, et al. 2022.
この結果からは、変形性膝関節症をみるときに、画像所見を否定する必要はないものの、症状の中心をただちに構造へ還元するのは適切ではないと考えられます。
歩行で悪化するのか、立ち上がりでつらいのか、こわばりが強いのか、どの範囲に不快感が広がるのかまで含めて読まなければ、臨床像は十分に見えてきません。
構造介入がそのまま症状改善につながるとは限らない
さらに重要なのは、構造的な異常に対して関節鏡視下で介入しても、期待されるほどの改善が得られない場合があることです。
Moseleyらの比較試験では、変形性膝関節症の患者様約180人を、関節鏡視下デブリードマン、関節鏡下洗浄、プラセボ手術の3群に割り付け、約2年間にわたって転帰を追跡しています。
A Controlled Trial of Arthroscopic Surgery for Osteoarthritis of the Knee
Moseley, et al.
少なくともこの論文は、関節内の変性組織を除去したり洗浄したりすることが、そのまま症状改善に直結するとは限らないことを示しています。
構造異常が見えることと、その異常を直接処理すれば痛みが改善することは同義ではありません。
一方で、変形性膝関節症は単なる軟骨の摩耗としてではなく、慢性炎症や代謝異常を含む病態として捉えた方が理解できる面もあります。
糖質過剰、インスリン抵抗性、AGE、慢性炎症などを含めた代謝・炎症モデルを確認したい方は、下記の関連コラムもあわせてご覧ください。
疼痛科学からみた変形性膝関節症|中枢神経での処理も含めて考える
変形性膝関節症では、画像や局所の組織変化だけで症状のすべてを説明できるとは限りません。
関節や周囲組織の変化に加えて、膝からの入力が中枢神経でどのように処理され、痛みやこわばり、動かしにくさとして現れているのかまで含めて考える必要があります。
変形性膝関節症を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す
ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。
変形性膝関節症としてまとめられる訴えの中にも、関連神経の分布を踏まえた方が捉えやすいケースがあります。
膝前面から大腿前面へ連続する違和感や筋出力低下が目立つ場合は大腿神経、前大腿部の表層の痛みや接触過敏が強い場合は大腿神経の前皮枝、膝前内側から膝蓋骨下方の不快感や過敏さが中心になる場合は伏在神経の膝蓋下枝、膝外側から大腿前外側へ広がる表層の違和感がある場合は外側大腿皮神経という見方が役立ちます。
膝前面の痛みをすべて関節軟骨や骨の変化だけで説明しようとすると、症状分布の違いが見えにくくなります。
しびれ、接触過敏、放散感、筋出力低下の出方まで追うことで、変形性膝関節症という診断名の中で何を優先して評価すべきかが絞られてきます。
結論
変形性膝関節症をみる際には、診断名やX線所見をそのまま受け取るのではなく、歩行や階段でどう悪化するのか、こわばりや重だるさはどう出るのか、膝前面や内側へ症状がどう広がるのかを丁寧に読むことが重要です。
論文を踏まえると、画像で確認される変形の強さと症状の強さは単純には一致せず、構造に対する介入がそのまま十分な症状改善につながるとも限りません。
そのため臨床では、慢性炎症や代謝異常の視点に加え、末梢神経の状態と入力、中枢神経での処理、症状分布の特徴まで含めて捉えることが欠かせません。
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