股関節痛と画像所見
股関節痛や鼠径部痛の臨床では、X線やMRIなどの画像検査が診断に広く用いられています。
画像検査では、変形性股関節症、関節唇損傷、骨棘形成などの構造変化が確認されることがあります。
これらの所見はしばしば痛みの原因として説明されます。
しかし近年の研究では、股関節の画像所見と症状が必ずしも一致しない可能性が報告されています。
つまり、画像で確認された構造異常だけでは股関節痛を十分に説明できない場合があるということです。
本記事では、股関節痛と画像所見の関係について研究を整理します。
股関節痛とX線所見は一致しない
股関節痛の原因として、変形性股関節症が説明されることがあります。
しかし、股関節痛とX線画像の関係を調べた研究では、症状と画像所見が一致しない可能性が示されています。
この研究では5,312人を対象に股関節のX線所見と症状の関係が検討され、鼠径部や大腿前面に股関節痛を訴える高齢者の多くで、X線画像上の変形性股関節症が確認されませんでした。
この結果からは、股関節痛があっても、X線で説明できる明確な変形性股関節症が存在しない場合が少なくないことが分かります。
つまり、X線で確認される構造変化だけで、今ある痛みの原因を決めることには限界があります。
「鼠径部や大腿前面に股関節痛が頻発する多くの高齢者には、X線画像上の変形性股関節症は認められなかった。」
Association of hip pain with radiographic evidence of hip osteoarthritis: diagnostic test study.
構造変化が痛みを直接説明するとは限らない
脚長差と腰痛をみた研究
身体アライメントや脚長差は、腰痛や股関節痛の原因として説明されることがあります。
ただし、股関節骨折や人工股関節置換術によって脚長差が生じた患者を対象にした報告では、脚の長さの著しい変化は、手術後数年で評価された腰痛とは関連していませんでした。
この結果からは、身体構造の大きな変化があったとしても、それだけで痛みの有無や持続を説明できるわけではないことが分かります。
少なくとも、脚長差やアライメントの変化をみつけたことと、痛みの原因を特定したことは同じではありません。
「股関節骨折や置換術による脚の長さの著しい変化を示した患者の研究では、そのような変化は手術後数年後に評価された腰痛と関連していなかった。」
The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain.
Lederman, et al.
無症状者の股関節MRIをみた研究
MRI研究では、症状のない人にも股関節の構造変化が存在することが報告されています。
腰痛、疾患、損傷のない45人を対象にした前向き盲検研究では、無症状の被験者の約73%に股関節の異常所見が確認され、関節唇損傷は約69%で認められました。
この結果は、関節唇損傷のような所見が、痛みのない人にも高頻度で存在することを示しています。
つまり、MRIで関節唇損傷やその他の異常が見つかったとしても、それだけで今ある股関節痛の原因と断定することはできません。
「症状のない被験者のMRIでは股関節の73%に異常が認められ、関節唇の損傷は69%で確認された。」
Prevalence of Abnormal Hip Findings in Asymptomatic Participants: A Prospective, Blinded Study.
結論|股関節の画像所見だけでは痛みは説明できない
ここまでの研究から、股関節痛とX線所見は必ずしも一致せず、痛みを訴える人でも明確な変形性股関節症が確認されない場合があることが分かります。
また、関節唇損傷を含む股関節の異常所見は、無症状者にも高頻度で存在します。
さらに、脚長差のような構造変化も、それだけで腰痛や股関節痛を説明する決定的な根拠にはなりません。
したがって、股関節の画像所見は臨床情報の一部ではありますが、それだけで今ある痛みの原因を単独で決定することはできません。
臨床では、画像所見のみで判断するのではなく、症状の分布、活動との関係、末梢神経の状態と入力、さらに神経系の情報処理まで含めて評価する視点が重要です。

