フローズンショルダー(五十肩)とは何か|まず押さえたい基本像
フローズンショルダー(五十肩)は、一般に肩関節周囲炎と呼ばれることもある、肩関節の疼痛と可動域制限を特徴とする整形外科領域でよくみられる疾患名です。
医学的には癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)と呼ばれることもありますが、近年はこの名称だけでも病態を十分に表せない可能性が指摘されています。
最初に押さえたいのは、肩関節周囲の痛み、重だるさ、夜間痛、動かしにくさの有無と、着替え、洗髪、結帯動作、頭上動作などの日常生活で困りやすい場面です。
一般には、関節包の炎症や拘縮、加齢変化、代謝異常、生活習慣の影響などで説明されることが多く、運動療法、生活指導、物理療法、薬物療法、徒手療法などが選択されます。
ただし、強い安静時痛、急速な腫脹、発熱、夜間痛の急激な悪化、明らかな神経脱落症状、外傷後の重篤な損傷が疑われる場合は、保存的介入のみで進めず、医師の評価や画像検査を優先すべきです。
最近の研究からみたフローズンショルダー(五十肩)|いま押さえたい知見
フローズンショルダー(五十肩)では、近年も病態理解に関する研究が続いています。
ここでは、名称の問題、可動域制限の解釈、慢性炎症や代謝異常との関連、AGEs、生活習慣、介入研究の全体傾向という流れで、現在の説明モデルを確認します。
名称と病態のずれをどうみるか
まず重要なのは、フローズンショルダーという名称そのものが、病態を正確に表しているとは限らない点です。
別の研究では、この用語が広く使われている一方で、実際には肩関節のさまざまな障害が混在したまま一括りにされてきた問題が指摘されています。
少なくとも、肩関節疾患全体の中で関節包拘縮が占める割合は限られており、人口全体でみた頻度も約1%未満と考えられます。
つまり、この名称は日常診療では便利でも、病態を厳密に示すラベルとしては曖昧さが残ります。
「つまり、フローズンショルダーは乱用された言葉であると同時に、誤用された言葉でもある。」
Time for a new name for frozen shoulder contracture of the shoulder
Neviaser, et al.
可動域制限は本当に関節包拘縮だけで説明できるのか
また別の研究では、覚醒時と全身麻酔下での肩関節外転可動域が比較されています。
その結果、すべての患者様で全身麻酔下の可動域が有意に増加し、増加幅は最小でも44°、最大では110°に達していました。
この結果からは、覚醒時にみられる可動域制限のすべてを関節包そのものの固定だけで説明するのは難しいと考えられます。
疼痛に伴う筋性防御や、神経系による身体の反応が可動域低下に大きく関与している可能性があります。
「この研究はすべての患者において全身麻酔下での他動的可動域の有意な増加を示し、フローズンショルダーの他動的可動域の減少は本当の関節包拘縮だけでは完全に説明できないことを示した。」
「自動運動による硬直や筋性防御はフローズンショルダー患者の可動域低下の主な要因であるようだ。」
Determining the contribution of active stiffness to reduced range of motion in frozen shoulder.
McCreesh, et al.
慢性炎症と代謝異常をどう位置づけるか
さらに、局所の肩関節だけでなく、全身の生理学的背景に注目した研究もあります。
糖尿病や心血管疾患は年齢にかかわらず有力な危険因子とされ、肥満やメタボリックシンドロームのような慢性的な軽度炎症を伴う状態との関連も論じられています。
この結果からは、フローズンショルダーを単なる局所の肩関節障害としてみるだけでは不十分です。
炎症性サイトカイン、自律神経バランス、神経免疫活性化、加齢に伴う酸化ストレスなどを含めて考えることで、臨床像をより広く捉えられます。
「肩関節包-靭帯複合体の一部は、おそらく加齢に関連した酸化ストレスや炎症性サイトカインの産生が増加し、活性酸素やAGEの産生が増加し、結合組織や細胞外マトリックスの疾患のリスクに悪影響を及ぼす可能性がある。」
Adhesive capsulitis: An age related symptom of metabolic syndrome and chronic low-grade inflammation?
Bunker, et al.
AGEsの蓄積は何を示しているのか
別の研究では、フローズンショルダーの病態を考えるうえでAGEsの蓄積が重要な視点として扱われています。
AGEsは糖化反応によって形成される不可逆的な化合物で、長寿命タンパク質に結合すると通常のリモデリングでは分解されにくく、結合組織に蓄積します。
つまり、糖代謝異常や慢性炎症の影響は、単に血液データの問題ではなく、肩関節周囲組織の性質そのものに影響する可能性があります。
この視点は、なぜ一部の患者様で経過が長引くのかを考えるうえでも重要です。
「AGEが長寿命タンパク質に結合すると、通常のリモデリングでは分解できず、結合組織に蓄積する。」
The puzzling pathophysiology of frozen shoulders – a scoping review
Bunker, et al.
生活習慣は肩関節環境にどう関わるのか
また別の研究では、現代の生活習慣そのものが肩関節前方の組織環境に影響する可能性も論じられています。
投球や頭上動作のような大きな肩の使用頻度が低い生活では、肩前部の関節包や靭帯の一部が十分に動かされず、その状態が長く続く可能性があります。
少なくとも、生活習慣は単なる背景情報ではなく、肩関節周囲組織に加わる機械的条件や代謝的条件を変える要素として考える必要があります。
炎症や酸化ストレス、AGEs形成との関連まで含めてみると、肩の問題を局所だけで理解する限界がより明確になります。
「このため、肩前部の関節包と靭帯はサイトカインの産生やAGEsの形成に関連する酸化ストレスを受けやすくなっている可能性がある。」
The puzzling pathophysiology of frozen shoulders – a scoping review
Bunker, et al.
個別研究と全体傾向は一致しない
癒着性関節包炎に対する徒手療法と運動療法をまとめたシステマティックレビューでは、16件の研究を対象に、疼痛、機能障害、外旋可動域が検討されています。
重要なのは、個別研究では改善が報告されていても、全体をまとめると有意差が安定して確認されなかった点です。
短期追跡でも長期追跡でも、疼痛、機能障害、外旋可動域に明確な有意差は示されず、エビデンスの質も低い〜非常に低いと評価されました。
この結果からは、徒手療法や運動療法の一部の理論を強く支持するには、研究全体の基盤がまだ弱いと考えられます。
少なくとも、個別研究の陽性結果だけで介入理論を強く語ることには慎重さが必要です。
Manual therapy and exercise for adhesive capsulitis
Page et al.
肩関節周囲に明らかな画像異常が乏しくても症状が強いことはありますし、逆に関節包や周囲組織に変化があっても、それだけで今ある痛みや可動域制限のすべてを説明できるとは限りません。
構造的な異常の意味づけを確認したい方は、画像診断シリーズもあわせてご覧ください。
疼痛科学からみたフローズンショルダー(五十肩)|中枢神経での処理も含めて考える
フローズンショルダー(五十肩)では、局所の組織変化だけでなく、その入力が中枢神経でどのように処理されているのかを考えることが重要です。
同じ部位の同じような所見があっても、痛みの強さ、広がり方、持続の仕方が一致しないことがあります。
これは、脊髄後角や脳での感覚処理、注意、予測、文脈、過去の経験などによって、症状の出方が変化するためです。
そのため、フローズンショルダー(五十肩)をみるときも、局所の異常だけで直線的に理解するのではなく、入力が中枢神経でどう意味づけられているのかという視点が必要になります。
全身麻酔下で可動域が増加した知見は、可動域制限を構造だけで理解することの限界を示しており、疼痛と防御反応の整理が重要であることを示しています。
フローズンショルダー(五十肩)を末梢神経からどうみるか|分布から読み直す
ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。
フローズンショルダー(五十肩)としてまとめられる訴えの中にも、皮神経や混合神経、さらに肩甲帯の運動に関わる神経の分布を踏まえた方がよいケースがあります。
どの神経分布と重なりやすいのか、しびれや接触過敏があるのか、筋出力低下まで含むのかを追うことで、何を評価すべきかが絞りやすくなります。
とくに肩外側から上腕外側にかけての症状が目立つ場合は、腋窩神経の分布をまず意識することが重要です。
一方で、肩後上方の痛みや肩甲帯周囲の違和感が強い場合には、肩甲上神経の分布も視野に入ります。
肩の挙上や外旋に伴う不快感、肩後面の症状をみるときには、関節だけでなく神経分布との重なりを確認することが重要です。
また、僧帽筋の働きに関連する肩甲帯の不安定さや、肩上部から頸部にかけての運動のしにくさが目立つ場合には、副神経という視点も必要になります。
肩の症状であっても、肩甲帯の出力低下としてみた方が理解できることがあります。
さらに、肩甲骨内側縁周囲の鈍痛や、肩甲帯の保持のしにくさが目立つ場合には、肩甲背神経も候補になります。
肩甲帯の安定化に関わる神経まで視野に入れることで、単なる肩関節周囲炎という理解では拾いにくい所見が見えてきます。
肩前方の違和感や、前胸部から肩関節前面にかけての動作時の不快感がある場合には、胸筋神経も含めてみる必要があります。
肩の症状は、肩関節そのものだけでなく、肩甲帯や前胸部を含めた神経分布の中で再検討した方がよいことがあります。
反対に、明らかな筋出力低下や挙上時の不安定さが強い場合には、関節の硬さだけでなく、混合神経や運動神経を含めた視点が必要になります。
つまり、フローズンショルダーという診断名がついていても、症状分布の読み方を丁寧に行うことで、関節包、筋、腱、末梢神経のどこに注目すべきかが見えやすくなります。
末梢神経という視点を加えることは、肩の症状を構造だけで理解しないためにも重要です。
結論
フローズンショルダー(五十肩)は、単純な関節包拘縮だけで説明できる疾患ではありません。
研究からは、名称そのものの曖昧さ、麻酔下で変化する可動域、慢性炎症、代謝異常、AGEsの蓄積、生活習慣、そして神経系の防御反応まで、複数の要因が関与している可能性が示されています。
そのため、可動域制限をみたときに、すぐに関節包の硬さだけで理解しないことが重要です。
また、五十肩やフローズンショルダーという名称だけで病態を固定しないことも大切です。
さらに、徒手療法や運動療法の研究も全体として一貫した強い支持を示しているわけではなく、介入理論を単純化しない視点が必要です。
局所の組織や構造だけでなく、中枢神経での処理、末梢神経の状態と入力、さらに全身の生理学的状態まであわせてみることで、整形外科領域の症状をより広く理解できます。
末梢神経という視点を持つことは、徒手療法家として肩の症状を構造だけで理解しないためにも重要です。
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