運動療法の疼痛改善エビデンスは多い
運動療法が痛みに有効かどうかを検討した研究は多くあります。
とくに慢性腰痛では、運動療法は無治療や最小限の介入と比べて、痛みや機能を改善する方向のエビデンスが示されています。
効果量が大きいと言い切ることはできませんが、有効性そのものは概ね支持されています。
この傾向は慢性腰痛に限らず、慢性疼痛全体でもみられます。
ただし、有効性と作用機序は別問題である
ここで分けるべきなのは、「効く」という臨床エビデンスと、「なぜ効くのか」という作用機序です。
研究でアウトカムの改善が示されたとしても、それだけで作用機序まで確定したことにはなりません。
これは徒手療法でも同じで、介入の効果が示されたことと、その説明モデルが正しいことは同義ではありません。
生物学的妥当性を語るなら、単に痛みや機能が改善したかどうかだけでなく、どの経路がその変化に関わったのかまで検討する必要があります。
運動療法の作用機序としてよく語られるのは運動誘発性鎮痛である
運動療法の鎮痛機序として、もっともよく挙げられるのは運動誘発性鎮痛です。
これは運動後に疼痛感受性が一時的に低下する現象を指します。
健常者では比較的一貫して観察されますが、慢性疼痛の患者様では反応が弱い場合もあり、逆に運動後の痛みが増えることもあります。
そのため、運動誘発性鎮痛は有力な候補ではあるものの、慢性疼痛の臨床改善をそれだけで説明できるわけではありません。
この機序の説明としては、下行性疼痛抑制、内因性オピオイド、内因性カンナビノイド、モノアミン、自律神経の反応などが候補に挙げられていますが、どの経路が中心になるのかは十分に分かっていません。
運動は利益だけでなく侵害受容入力にもなりうる
運動には、鎮痛方向に働く要素だけでなく、侵害受容入力になりうる要素も含まれます。
筋、腱、関節、骨膜などに加わる張力、伸張、圧縮、反復的な負荷は、条件によっては侵害受容器を興奮させる刺激になります。
つまり、運動はそれ自体が常に鎮痛的に働くわけではなく、負荷量が上がれば侵害受容入力も増える介入です。
そのため、慢性疼痛の患者様への運動療法では、利益だけでなく不利益もみる必要があります。
活動量の増加、身体機能の改善、自己効力感の変化、睡眠や気分への良い影響を通して、結果として痛みの改善につながることがあります。
一方で、負荷が過大になると、鎮痛よりも痛みの増悪や疲労の増加が起こる可能性があります。
そのため、常に良いものと単純化せず、負荷量、回数、頻度、回復反応を踏まえて調整する視点が重要です。
作用機序の研究には限界もある
運動療法の作用機序の研究は進んでいますが、主要な作用機序が十分に明らかになったとは言えません。
現在の研究から言えるのは、複数の妥当な機序候補がある一方で、どの患者様で何が中心になるのかまでは十分に分かっていないということです。
そのため、運動で痛みが改善したときに、すぐに「筋力が上がったから」「姿勢が変わったから」「炎症が下がったから」と単線的に説明するのは適切ではありません。
結論
運動療法の痛みに対するエビデンスは多いです。
しかし、そのことと、作用機序が十分に確定していることは同義ではありません。
現在の研究から言えるのは、運動療法は単一の作用機序で働くのではなく、侵害受容入力、末梢組織、中枢神経系、情動、行動、生活機能など、複数の要素が関わる介入として理解するのが妥当だということです。
慢性疼痛の患者様に対しては、運動の利益を活かしつつ、負荷が強すぎた場合の不利益も見落とさず、身体の反応をみながら調整していく視点が重要です。
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