中枢性感作と末梢性感作の違い|慢性疼痛を神経科学からどう理解するか

ペインサイエンス
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中枢性感作と末梢性感作の違い|慢性疼痛を神経科学からどう理解するか

慢性疼痛では、痛みの強さが組織損傷の程度と一致しないことが少なくありません。

軽微な組織損傷にもかかわらず強い痛みが続く場合や、画像検査で明確な異常が見つからないにもかかわらず症状が持続する場合もあります。

この乖離を理解するうえで重要なのが、末梢性感作と中枢性感作です。

どちらも「痛みに対して過敏になる現象」ですが、変化が起こる部位も、症状の現れ方も、考えるべき臨床的意味も同じではありません。

本記事では、両者の違いを神経科学とペインサイエンスの視点から整理します。

▶︎ ペインサイエンスとは何か

痛み研究の流れからみる感作概念

痛み研究では、痛みを単なる末梢から中枢への伝達として捉える見方から、神経系全体の調整現象として捉える見方へと大きな転換が起こってきました。

1965年にMelzackとWallが提唱したゲートコントロール理論は、痛みが末梢から一方向に伝わるだけでなく、脊髄レベルで調整される可能性を示した重要な理論です。

その後、Woolfらの研究によって中枢性感作という概念が整理され、侵害刺激の持続が脊髄後角ニューロンの興奮性変化と関連する可能性が示されました。

一方で、炎症や組織損傷に伴って侵害受容器の反応性が高まる現象は、末梢性感作として理解されるようになりました。

現在のペインサイエンスでは、慢性疼痛は末梢神経、脊髄、脳を含む複数レベルの神経回路の相互作用として考えられています。

▶︎ ゲートコントロール理論とは何か

末梢性感作とは何か

末梢性感作とは、侵害受容器やその周囲の末梢組織で感受性が高まり、侵害刺激に対する反応が過剰になりやすい状態です。

組織損傷や炎症が起こると、侵害受容器の閾値は低下し、通常よりも弱い刺激でも侵害受容信号が発生しやすくなります。

この背景には、プロスタグランジン、ブラジキニン、ヒスタミン、サイトカインなどの炎症性メディエーターが関与します。

そのため末梢性感作では、症状は比較的局所に一致しやすく、損傷部位や炎症部位の近傍で圧痛や痛覚過敏として現れやすくなります。

つまり末梢性感作は、末梢神経の状態と入力が局所で変化している病態として理解しやすい概念です。

▶︎ 末梢性感作とは何か

中枢性感作とは何か

中枢性感作とは、脊髄や脳を含む中枢神経系で感覚情報の処理が変化し、同じ入力に対しても痛みが増幅されやすくなる状態です。

侵害刺激が長期間続くと、脊髄後角ニューロンの興奮性亢進、抑制系の機能低下、シナプス可塑性の変化などが関与し、痛みの処理そのものが変わっていきます。

このとき問題になるのは、入力の量だけではありません。

中枢神経がその入力をどう解釈し、どの程度増幅し、どのような出力として表すかが、症状の強さや広がりに大きく関わります。

そのため中枢性感作では、局所の組織所見だけでは説明しにくい広範な痛み、異痛症、持続的な過敏性がみられることがあります。

▶︎ 中枢性感作とは何か

末梢性感作と中枢性感作の違い

末梢性感作と中枢性感作の違いは、単なる名称の違いではありません。

末梢性感作は主に侵害受容器や末梢組織レベルの感受性変化を指し、炎症や組織損傷との関連を比較的追いやすい特徴があります。

一方で中枢性感作は、脊髄や脳における情報処理の変化を含む概念であり、症状が局所所見と一致しにくくなることがあります。

末梢性感作では局所の圧痛や一次性痛覚過敏が前景に出やすく、中枢性感作では異痛症、二次性痛覚過敏、痛みの拡大、非侵害刺激への過剰反応といった臨床像が目立ちやすくなります。

ただし実際の慢性疼痛では、この二つが完全に分かれて存在するとは限りません。

末梢神経の状態と入力の変化が持続し、それが中枢神経の処理変化と相互に影響し合うことで、症状が複雑化していると考えたほうが臨床には適しています。

▶︎ 中枢性感作と末梢性感作の違い

感作によってみられる症状

感作が生じると、患者様が感じる症状の質と範囲は変化します。

代表的なのは、侵害刺激に対して過剰に痛みを感じる痛覚過敏です。

また、通常であれば痛みを伴わない接触や軽い機械刺激が痛みとして知覚される異痛症も重要です。

さらに、痛みの範囲が本来の組織損傷部位を超えて広がることもあります。

こうした現象は、痛みを局所組織だけで説明することの限界を示しており、中枢神経での情報処理の変化を考える必要があることを示唆します。

▶︎ 慢性疼痛とは何か

徒手療法をどう考えるか|末梢神経の状態と入力と中枢神経処理

徒手療法や運動療法では、皮膚、筋、関節、末梢神経に対するさまざまな感覚入力が生じます。

重要なのは、その刺激を局所組織への直接的変化だけで説明するのではなく、末梢神経の状態と入力が中枢神経でどう処理され、どのような出力変化につながるのかという視点で考えることです。

慢性疼痛では、局所の組織損傷だけでなく、感作、予測、注意、情動、過去の経験、下行性調節などが重なって症状が構成されます。

そのため徒手療法の意義を考える際にも、構造だけではなく神経系全体の情報処理として再評価する必要があります。

▶︎ ニューロマトリックス理論とは何か

結論

末梢性感作と中枢性感作は、どちらも慢性疼痛を理解するうえで重要ですが、同じ現象ではありません。

末梢性感作は侵害受容器や末梢組織レベルの感受性変化であり、中枢性感作は脊髄や脳を含む中枢神経の情報処理変化として理解されます。

そして実際の慢性疼痛では、この二つが独立して存在するというより、末梢神経の状態と入力と中枢神経処理が相互に影響し合いながら症状を形づくっていると考えるほうが自然です。

そのため痛みを組織損傷だけで説明するのではなく、神経系全体の反応と出力として読む視点が重要になります。

 


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