肩の石灰沈着性腱炎は画像だけでは説明できない
石灰沈着性腱炎は、肩の回旋筋腱板に石灰沈着がみられるとして説明される、整形外科領域の代表的な肩痛の一つです。
一般には、回旋筋腱板にカルシウム結晶が沈着し、炎症や疼痛が生じる状態と理解されています。
石灰沈着は主に棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋などの腱にみられると説明され、臨床では洗浄、注射治療、運動療法、物理療法、生活指導、徒手療法などが選択されます。
最初に押さえたいのは、症状の部位と質、そして難しい動作です。
肩前方なのか、肩外側なのか、肩後方なのか、夜間痛があるのか、挙上、結帯、洗髪、衣服の着脱などの動作で何が困りやすいのかを確認することが重要です。
また、強い安静時痛、急速な腫脹、発熱、夜間痛、明らかな神経脱落症状、外傷後の重篤な損傷が疑われる場合は、保存的介入のみで進めず、医師の評価や画像検査を優先すべきです。
石灰沈着の除去だけでは改善を説明できない
石灰沈着性腱炎では、石灰沈着そのものが痛みの原因であり、それを除去することが症状改善につながるという理解が広く用いられてきました。
しかし近年は、石灰沈着を除去すること自体が本当に臨床的改善につながるのかを再検討する研究が出ています。
石灰沈着の除去は症状を改善するのか
まず重要なのは、石灰沈着の除去そのものが症状改善につながるとは限らない可能性があることです。
肩の石灰沈着性腱炎218名を対象としたランダム化比較試験では、洗浄+コルチコステロイド注入、偽洗浄+コルチコステロイド注入、偽洗浄のみの3群が比較されました。
結果として、4か月後と24か月後の追跡で、洗浄を行った群も、偽洗浄にステロイドを加えた群も、偽治療より明確に優れてはいませんでした。
さらに、X線で石灰沈着が消失したかどうかと治療効果の間にも差はみられず、大量に石灰を除去しても、少量あるいは除去しなかった場合より良い結果は示されませんでした。
この結果からは、石灰沈着そのものを取り除くことが、症状改善の決定因子とはいえないことが分かります。
「石灰沈着性腱炎の治療において、4ヶ月後および24ヶ月後の追跡調査で、洗浄+ステロイド療法と、偽洗浄+ステロイド療法のいずれもが、偽治療よりも優れた効果を示さなかった。」
「4ヶ月後および24ヶ月後にX線画像上の沈着物が消失した患者と、沈着物が変化しなかった患者とで治療効果に差がなかったことから、石灰化の除去が症状緩和につながるという従来の考えに疑問が投げかけられた。」
「大量の石灰物質を除去しても、少量を除去した場合や、全く除去しなかった場合と比較して良い結果が得られなかったことから、石灰沈着物自体が疼痛の原因となるかどうかについてはさらに疑問が残る。」
Ultrasound guided lavage with corticosteroid injection versus sham lavage with and without corticosteroid injection for calcific tendinopathy of shoulder randomised double blinded multi-arm study.
石灰沈着は無症状でも存在する
次に重要なのは、石灰沈着があっても無症状であるケースがあることです。
石灰沈着と症状の関係を検討した研究では、有症状群と無症状群が比較され、石灰化が存在しても症状がないケースが一定数存在することが報告されています。
この研究では、石灰沈着性腱炎の有症状群57名と無症状群24名が比較されました。
石灰沈着部位は主に棘上筋に認められ、超音波検査とドップラー検査を用いて炎症の有無も評価されています。
この結果からは、石灰沈着が画像で確認されたという事実だけでは、それが今ある痛みの原因であると結論づけるには不十分だと分かります。
つまり、画像所見と症状は必ずしも一致しません。
「無症状の石灰化が、このように高頻度に認められることを考えると、X線検査のみでは、石灰化が実際に疼痛の原因であると結論付けるのに十分な証拠は得られない。」
Assessment of calcific tendonitis of rotator cuff by ultrasonography: Comparison between symptomatic and asymptomatic shoulders.
ここまでの研究を並べると、石灰沈着があることと、痛みが出ていることとは単純には結びつかないと分かります。
石灰沈着を除去しても症状が改善しない場合があり、逆に石灰沈着が存在しても無症状であるケースもあります。
少なくとも、石灰沈着の存在だけでは、肩の痛みを十分に説明できません。
中枢神経処理を含めて読む必要がある
石灰沈着性腱炎では、局所の組織変化だけでなく、その入力が中枢神経でどのように処理されているのかを考えることが重要です。
同じ部位に同じような所見があっても、痛みの強さ、広がり方、持続の仕方が一致しないことがあります。
これは、脊髄後角や脳での感覚処理、注意、予測、文脈、過去の経験などによって、症状の出方が変わるためです。
近年のペインサイエンスでは、痛みは末梢神経の状態と入力、中枢神経処理、情動、認知など複数の要素によって形成されると理解されています。
そのため肩の痛みも、腱や石灰沈着などの構造変化だけでは説明できない可能性があります。
したがって、石灰沈着性腱炎をみるときも、局所の異常だけで直線的に理解するのではなく、入力が中枢神経でどう意味づけられているのかという視点が必要になります。
石灰沈着があることと、患者様が今感じているつらさがそのまま一致するとは限らないからです。
末梢神経の分布から症状を読み直す
ここで大切になるのが、末梢神経の視点です。
石灰沈着性腱炎としてまとめられる訴えの中にも、皮神経や混合神経の分布を踏まえた方が捉えやすいケースがあります。
どの神経分布と重なりやすいのか、しびれや接触過敏があるのか、筋出力低下まで含むのかを追うことで、何を評価すべきかが絞りやすくなります。
肩外側から上腕外側にかけての症状が前景にある場合は、腋窩神経の分布をまず意識することが重要です。
肩後上方の痛みや、挙上時に肩甲上部から後方へ広がる違和感がある場合には、肩甲上神経の分布も踏まえた方が理解できます。
また、肩上部から頸部にかけての張りや、肩甲帯の保持のしにくさ、挙上保持での不安定さが目立つ場合には、副神経という視点も重要になります。
さらに、鎖骨周囲から肩前上方にかけての表層の痛みや接触過敏がある場合には、鎖骨上神経の分布も確認したいところです。
ここで重要なのは、肩に石灰沈着という画像所見があったとしても、症状分布が腋窩神経、肩甲上神経、副神経、鎖骨上神経の分布とより強く重なっているなら、その解釈を分けて考える必要があるという点です。
つまり、画像上の石灰沈着をそのまま主原因とみなすのではなく、実際の症状がどの神経分布に近いのか、感覚の質はどうか、どの動作で悪化するのかを丁寧にみることで、より臨床的な理解に近づけます。
結論
石灰沈着性腱炎では、石灰沈着が痛みの原因であり、その除去が症状改善につながるという説明が広く用いられてきました。
しかし近年の研究では、石灰除去と症状改善の関連が明確ではないことや、無症状の石灰沈着が存在することが報告されています。
これは、石灰沈着という構造変化だけでは肩の痛みを十分に説明できない可能性を示しています。
そのため、画像所見のみで肩の痛みの原因を特定することには限界があります。
石灰沈着性腱炎をみる際には、診断名や画像所見をそのまま受け取るのではなく、研究知見を踏まえながら、症状分布、感覚の質、動作での変化を丁寧に読むことが重要です。
さらに、中枢神経での処理と末梢神経の状態という視点をあわせて持つことで、肩の症状をより立体的に理解できます。
末梢神経という視点を持つことは、肩の症状を構造だけで理解しないためにも、徒手療法家として大切です。

