ブロック注射は治療と診断の境界にある
ブロック注射は、局所麻酔薬などを用いて神経、関節、あるいはその周辺組織に介入し、症状の軽減を図る注射療法です。
日常的な臨床では、最初から純粋な診断検査として行うというより、治療目的も兼ねて実施し、その反応を診断や臨床推論の限定的な判断材料として読むことが多くあります。
ブロック注射には、神経根、椎間関節、仙腸関節、硬膜外、星状神経節(交感神経節)、トリガーポイントなどがありますが、目的も精度も同じではありません。
神経根との関連をみたいのか、椎間関節との関連をみたいのか、仙腸関節を候補として考えているのか、筋・筋膜由来の痛みとの関連をみたいのか、自律神経系との関連をみたいのかによって、選ばれる注射は異なります。
そのため、ブロック注射後に症状が軽減したとしても、その変化をそのまま痛みとの関連が疑われる組織の証明とみなすことはできません。
ブロック注射後の変化は限定的な判断材料として読む必要がある
ブロック注射後に痛みが軽減すると、その領域が痛みとの関連があるかのように見えます。
しかし、実際に示されているのは「その領域への介入で症状が変化した」という現象であって、「その組織が唯一の原因だった」という証明ではありません。
この違いを見落とすと、治療反応をそのまま病態の証拠として扱ってしまいます。
さらに、ブロック注射の反応には、局所麻酔の薬理作用だけでなく、薬液の広がり、期待、予測、プラセボ反応、DNIC、評価基準の違いなど複数の要因が関与します。
したがって、ブロック注射後の変化は重要な所見ではあっても、単独で痛みとの関連が疑われる組織を決める材料にはなりません。
選択的神経根ブロックは名称ほど選択的ではない
選択的神経根ブロックは、痛みとの関連が疑われる神経根を推定する目的で用いられます。
しかし実際には、薬液の広がりや手技条件の影響を受けるため、名称から想像されるほど高い選択性が常に得られるわけではありません。
下記のシステマティックレビューは、選択的神経根ブロックの診断精度は十分に確立されておらず、ブロックで痛みが軽減しても、その神経根が本当に症状の原因だと強く言えないと結論付けています。
対象となった6個の研究はいずれも方法論的な限界が大きく、診断的価値は不確実と評価されています。
選択的神経根ブロックは重大な合併症が少ない比較的安全な検査ですが、その追加的な診断情報が、手術判断の改善や費用に見合うかは不明です。
診断の決め手として扱うには根拠が弱く、今後は患者様の転帰まで含めて検証する、より質の高い研究が必要だと述べています。
The utility of diagnostic selective nerve root blocks in the management of patients with lumbar radiculopathy: a systematic review.
Beynon R, Elwenspoek MMC, Sheppard A, Higgins N, Kolias A, Laing R, Whiting P, Hollingworth W.
下記は、前向きの対照研究ですが、同じように診断目的の選択的神経根ブロックは一定の参考にはなるものの、正確性は十分ではないと結論づけています。
ブロック後に痛みが軽減しても、その神経根が本当に症状の発生源だと強く断定できるわけではありません。
逆に、反応が乏しいからといって、その神経根の関与を完全に否定できるわけでもありません。
また著者らは、結果がぶれる背景として、薬液の広がり方や注入部位の問題が影響すると述べています。
要するにこの研究は、選択的神経根ブロックは補助的な判断材料にはなっても、診断の決め手として扱うには限界がある、という立場です。
Value of diagnostic lumbar selective nerve root block: a prospective controlled study.
Yeom JS, Lee JW, Park KW, Chang BS, Lee CK, Buchowski JM, Riew KD.
研究からみるブロック注射の限界
研究をみると、ブロック注射の限界は薬液の広がりだけでは説明できません。
一度だけ行うブロックそのものに偽陽性が含まれ、判定基準や比較方法によって結果の意味が大きく変わることが示されています。
つまり、ブロック注射後に症状が軽減しても、それだけで痛みとの関連が疑われる組織が示されたとはいえません。
偽陽性は避けられない
この論文は、診断的ブロックは慢性疼痛の評価に役立つ可能性がある一方、その妥当性はブロックの種類ごとに大きく異なると述べています。
とくに椎間関節性疼痛では研究の蓄積がありますが、単回のブロックでは偽陽性が多く、結果は慎重に解釈する必要があります。そのため著者らは、診断の信頼性を高めるには、各患者様の中で対照条件を設けた方法が必要だとしています。
一方で、神経根、交感神経、関節内、椎間板由来疼痛に対する診断的ブロックは、妥当性や予後との関係を支える研究がまだ乏しいとの結論です。
つまりこの論文は、診断的ブロックは解剖学的な痛みの部位を推定する手段として有望ではあるものの、多くの領域では根拠が十分ではなく、結果をそのまま強く信頼することには限界がある、という立場です。
Diagnostic blocks for chronic pain. Curatolo M, Bogduk N.
腰椎椎間関節ブロックでは判定基準の影響が大きい
この論文は、腰椎椎間関節に対する単回の診断的ブロックは偽陽性が多く、診断法として信頼しにくいと述べています。
最初のブロックで痛みが軽減しても、確認ブロックでは再現されない例が少なくなく、単回の反応だけで椎間関節を痛みの発生源と判断するのは危険だとされています。
The false-positive rate of uncontrolled diagnostic blocks of the lumbar zygapophysial joints.
Schwarzer AC, Aprill CN, Derby R, Fortin J, Kine G, Bogduk N.
この論文は、腰椎椎間関節由来の痛みに対する診断的ブロックは、方法を厳密にすれば一定の妥当性があると述べています。
ただし、単回のブロックでは偽陽性が多く、診断法としては不十分です。一方で、十分な痛みの軽減を基準にした二重ブロックでは、より信頼できる結果が得られると整理されています。
つまりこの論文は、診断的ブロックの有用性を認めつつも、単回の反応だけで判断するのではなく、対照的な手順を組み込んで慎重に解釈すべきだと示したレビューです。
An update of the systematic assessment of the diagnostic accuracy of lumbar facet joint nerve blocks.
Falco FJE, Manchikanti L, Datta S, Sehgal N, Geffert S, Onyewu O, et al.
仙腸関節ブロックでも同じ問題がある
この論文は、仙腸関節性疼痛は、徒手誘発テストや画像所見だけでは診断しきれず、比較対照を設けた診断的ブロックのほうが妥当性が高いと述べています。
一方で、単回の診断的ブロックは偽陽性が多く、反応だけで仙腸関節由来と判断することには限界があります。
Evaluation of sacroiliac joint interventions: a systematic review.
Rupert MP, Lee M, Manchikanti L, Datta S, Cohen SP.
結論
ブロック注射は、日常臨床では治療目的も兼ねて行われ、その反応が診断や臨床推論の手がかりとして読まれることがあります。
注射後に症状が軽減しても、それだけで痛みとの関連が疑われる組織を証明したことにはなりません。
薬液の広がり、偽陽性、判定基準の違い、期待や文脈要因も結果に影響します。
そのため、この変化は原因の証明ではなく、その領域への介入で反応が変わったという限られた情報として解釈する必要があります。
この点は徒手療法にも共通します。
圧痛、動作痛、症状の再現、神経学的所見、画像、ブロック注射後の変化は、いずれも仮説形成の材料にはなりますが、それだけで原因を断定することはできません。
ブロック注射を批判的に読むことは、局所所見を証明ではなく推論の材料として扱うために重要です。
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