アプリヘンションテストとは何か|整形外科的テストを吟味する

整形外科的テストDNM
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アプリヘンションテストとは何か

アプリヘンションテストの「アプリヘンション(apprehension)」は、不安、身構え、回避反応を意味します。

この検査は、単なる痛みの有無ではなく、「肩が外れそうだ」という脱臼不安感をみる整形外科的テストです。

肩関節では、前方アプリヘンションテストと後方アプリヘンションテストがあります。

前方アプリヘンションテストは、背臥位で肩関節を90°外転位、肘関節を90°屈曲位に置き、肩関節を外旋方向へ誘導して行います。

この検査では、肩甲上腕関節の前方不安定性を評価し、前下方関節唇、前下関節包、下関節上腕靱帯複合体、バンカート損傷、骨性バンカート損傷、ヒルサックス損傷などが関わる病態を疑う手がかりになります。

一方、後方アプリヘンションテストは、背臥位で肩関節を90°屈曲位に置き、水平内転と内旋を加えながら後方方向のストレスを加えて行います。

この検査では、肩甲上腕関節の後方不安定性を評価し、後方関節唇、後方関節包、下関節上腕靱帯の後方成分など、肩関節後方の支持構造が関わる病態を疑う手がかりになります。

ただし、どちらの検査も単一組織を直接判定する検査ではありません。

確認しているのは、不安定方向への誘導に対して、患者様が脱臼不安感、回避反応、筋性防御、痛みを示すかどうかです。

そのため、陽性所見を痛みだけで判定すると、腱板障害、肩峰下痛、肩鎖関節由来の痛み、四辺形間隙周囲の症状なども混ざります。

したがって、アプリヘンションテストでは、痛みよりも脱臼不安感を主要所見として解釈する必要があります。

 

※バンカート損傷:肩関節前方脱臼に伴って、関節窩前下方の関節唇が損傷する病態

※骨性バンカート損傷:関節窩前下方の関節唇損傷に、同部位の骨片や骨折を伴う病態

※ヒルサックス損傷:前方脱臼時に、上腕骨頭の後外側が関節窩前縁に衝突して生じる圧迫骨折または陥没骨折

アプリヘンションテストの診断精度はどうか

この論文では、外傷性肩関節前方不安定性に対する3つの身体診察テストのうち、前方アプリヘンションテストの診断的有用性も検討されています。

身体診察後に肩関節鏡を受けた363例のうち、外傷性肩関節前方不安定性が関節鏡または外傷後の画像で確認された46例が研究群とされました。

前方アプリヘンションテストでは、脱臼不安感を陽性基準にした場合、感度72%、特異度96%、陽性尤度比20.2と報告されています。

一方で、痛みを陽性基準にすると、診断精度は低下しました。

つまり、この論文で前方アプリヘンションテストについて示されているのは、「痛いかどうか」ではなく、「外れそうで怖い」という脱臼不安感を陽性基準にしたときに診断的有用性が高いという点です。

陽性であれば外傷性肩関節前方不安定性を強く示唆しますが、感度は72%であるため、陰性だけで否定できる検査ではありません。

Clinical Assessment of Three Common Tests for Traumatic Anterior Shoulder Instability

Adam J. Farber, Renan Castillo, Mark Clough, Michael Bahk, Edward G. McFarland

肩の徒手検査全体を扱った研究では、アプリヘンションテスト、リロケーションテスト、前方リリーステストが肩関節前方不安定性の診断に役立つ可能性が示されています。

一方で、研究の質や一貫性には限界があり、肩の徒手検査を単独で病態確定に使うことには慎重さが必要です。

したがって、アプリヘンションテストは有用な検査ではありますが、画像所見、既往歴、症状の質、他の身体所見と合わせて解釈する必要があります。

※リロケーションテスト:前方アプリヘンションテストで脱臼不安感が出た状態から、上腕骨頭へ前方から後方への圧を加え、前方へ移動しようとする上腕骨頭を支えることで脱臼不安感が軽減するかをみる検査。

※前方リリーステスト:リロケーションテストで加えていた後方への支えを解除し、上腕骨頭が再び前方へ動きやすい状態になったときに、脱臼不安感が再現されるかをみる検査。サプライズテストとも呼ばれます。

Physical examination tests of the shoulder: a systematic review with meta-analysis of individual tests

Eric J. Hegedus, Adam Goode, Skye Campbell, Amy Morin, Michael Tamaddoni, Claude T. Moorman, Chad Cook

▶︎画像診断と痛みの関係

▶︎肩関節唇損傷を再考する

アプリヘンションテストを末梢神経の視点から再検討する

アプリヘンションテストで再現される症状は、関節唇や関節包だけでなく、肩関節周囲を走行する末梢神経の状態も含めて考える必要があります。

前方アプリヘンションテストでは、肩関節を外転・外旋方向へ誘導するため、前胸部から上腕前面に関わる外側胸筋神経・内側胸筋神経、筋皮神経、肩外側の症状に関わる腋窩神経を確認する視点が必要です。

一方、後方アプリヘンションテストでは、肩関節を屈曲・水平内転・内旋方向へ誘導しながら後方ストレスを加えるため、腋窩神経に加えて、肩甲下筋に関わる上肩甲下神経・下肩甲下神経の反応も考慮します。

ただし、アプリヘンションテスト陽性そのものが神経障害を示すわけではありません。

患者様が訴えるのが「外れそうで怖い」ではなく、「肩の外側が痛い」「上腕がしびれる」「前胸部や上腕前面に嫌な感じがある」という内容であれば、関節不安定性だけでなく、末梢神経の関与も含めて再検討する必要があります。

アプリヘンションテストは方向性のある症状評価には使えますが、単独で関節唇損傷や神経障害を確定する検査ではありません。

▶︎腋窩神経とは何か

▶︎四辺形間隙症候群を再考する

結論

アプリヘンションテストは、肩関節前方または後方への不安定性を疑う場面で用いられる整形外科的テストです。

特に前方アプリヘンションテストでは、痛みではなく脱臼不安感を陽性基準にしたとき、外傷性肩関節前方不安定性を示唆する力が高くなります。

ただし、陽性所見は病態の確定ではなく、不安定方向への誘導に対する脱臼不安感、回避反応、痛み、筋性防御を含む反応として読む必要があります。

また、画像所見や徒手検査だけで関節唇損傷、骨性病変、末梢神経の関与を一対一で決めることはできません。

そのため本検査は、肩関節不安定性の方向性を確認し、症状の質や末梢神経の関与も含めて臨床推論を進めるための手がかりとして位置づけるのが妥当です。

▶︎ 整形外科的テストを吟味するとは何か


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