前骨間神経麻痺とは何か|基本像を確認する
前骨間神経麻痺は、正中神経から分枝する前骨間神経の障害です。
前骨間神経は運動神経であり、長母指屈筋、示指深指屈筋、方形回内筋を支配します。
そのため、前骨間神経麻痺では感覚障害よりも、母指・示指屈曲の低下、OKサインの異常、精密把持のしにくさとして現れることが多くあります。
同じ近位前腕の正中神経系トラブルである円回内筋症候群と似て前腕痛を伴うことはありますが、前骨間神経麻痺では感覚異常が目立たない点が大きな違いです。
また、手根管症候群と混同されることもありますが、手根管症候群のような手指のしびれではなく、純粋な運動障害が中心になる点が異なります。
整形外科領域では、こうした所見は腱障害や母指・示指の局所問題として処理されることがあり、前骨間神経障害は見落とされる傾向があります。
前骨間神経麻痺の研究知見|前骨間神経障害は母指・示指屈曲障害の原因となる
下記の論文では、前骨間神経麻痺の異常部位は前腕の前骨間神経そのものではなく、上腕レベルの正中神経幹内にある、前骨間神経を形成する運動神経束に存在することが示されました。
しかも異常は1か所だけではなく、複数の部位にみられる例が多く、前骨間神経麻痺を前腕での局所的な絞扼だけで説明することは難しいと考えられます。
別の論文でも、前骨間神経麻痺は前腕での単純な絞扼障害としてではなく、正中神経束の限局した異常として再検討されていました。
とくに重要なのは、異常部位が前腕の前骨間神経そのものではなく、肘より近位の正中神経束内に存在する可能性が示されている点です。
また、前骨間神経麻痺は自然に改善する例がある一方で、回復が不十分な症例もあり、改善しない場合は前腕の局所だけでなく、より近位の神経束障害を含めて考える必要があると述べられています。
前骨間神経麻痺はなぜ見落とされるのか|画像所見だけで原因は決められない
前腕痛や母指・示指屈曲障害では、局所の腱障害や頚椎由来の問題が疑われやすく、画像診断でもさまざまな構造所見が確認されることがあります。
しかし、こうした構造所見だけで症状の原因を決めることはできません。
前骨間神経麻痺では、MRIで方形回内筋、長母指屈筋、示指深指屈筋の信号変化や萎縮が確認されることがありますが、画像はあくまで補助情報です。
画像をそのまま原因とみなすのではなく、運動所見と経過をあわせて読む必要があります。
前腕痛・母指示指屈曲障害を末梢神経からどうみるか|円回内筋症候群との違いも含めて読む
前腕痛や母指・示指屈曲障害を末梢神経からみるときに重要なのは、感覚障害の有無よりも、どの運動が落ちているかを丁寧にみることです。
母指の第一関節(IP関節)を曲げる力と、示指の第二関節(DIP関節)を曲げる力が弱く、OKサインがきれいに作れないなら、前骨間神経障害を考えます。
一方で、しびれや感覚異常を伴い、前腕近位部での圧迫や回内動作で症状が変化するなら、円回内筋症候群の可能性も考える必要があります。
前骨間神経は運動神経なので、長母指屈筋、示指深指屈筋、方形回内筋の出力低下をどう読むかが見立ての中心になります。
結論
前骨間神経麻痺では、前腕痛や母指・示指屈曲障害を腱障害や局所の手の問題だけで説明すると見落としが生じます。
円回内筋症候群と似て、どちらも近位前腕の正中神経系トラブルとして現れますが、前骨間神経麻痺は感覚障害が乏しい純運動障害である点が異なります。
OKサインの変化や、長母指屈筋・示指深指屈筋・方形回内筋の反応をあわせてみることが重要です。
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