前皮神経絞扼障害とは何か|基本像を確認する
前皮神経絞扼障害は、腹壁に分布する皮神経、とくに肋間神経の前皮枝の絞扼が関わる病態です。
これらの神経は腹直筋外縁付近で筋膜を貫くため、その通過部で絞扼が生じると、限局した腹痛や腹壁痛として現れます。
腹痛や腹壁痛は消化器疾患や婦人科疾患に由来すると考えられやすく、腹壁の皮神経由来の痛みという視点は、見逃されやすくなります。
前皮神経絞扼障害の研究知見|肋間神経前皮枝の絞扼は腹痛の原因となる
前皮神経絞扼障害では、肋間神経の前皮枝の絞扼が、腹痛や腹壁痛の原因として報告されています。
重要なのは、腹痛として一括されている症状の中に、消化器疾患や機能性腹痛だけでは説明できない、皮神経由来の訴えが含まれているという点です。
この論文では、前皮神経絞扼障害は腹壁痛の代表的な原因のひとつであり、慢性腹痛の中でも候補に入れるべき病態だと述べています。
とくに重要なのは、腹直筋外縁の限局した圧痛、腹筋緊張で痛みが増えるカーネット徴候、局所麻酔注射への反応が、診断の手がかりとして有用だと整理されている点です。
慢性腹痛で画像検査や血液検査に決め手がない場合でも、それを原因不明とみなすのではなく、腹壁の皮神経の絞扼という視点を入れる必要があります。
※カーネット徴候:圧痛部を押さえたまま腹筋に力を入れてもらい、痛みが増えるか変わらなければ腹壁由来の痛みを示す所見。
別の研究では、前皮神経絞扼障害は救急外来の急性腹痛患者でも一定数みられる病態であり、腹痛の鑑別から外してよい原因ではないことが示されています。
報告では、急性腹痛患者のうち約2%が前皮神経絞扼障害と診断されており、頻度は高くなくても、日常診療で見逃されうる原因です。ということは、慢性疼痛の患者様が多い整形外科クリニックなどではもっと比率が高いことも考えられます。
不要な検査や診断の遅れを避けるためにも、腹痛の鑑別に腹壁由来の痛みを入れる必要があります。
前皮神経絞扼障害はなぜ見落とされるのか|内臓疾患と間違えられる可能性がある
腹痛や腹壁痛では、消化管、胆嚢、虫垂、婦人科疾患などの内臓由来の病態がまず疑われやすくなります。
そのため、腹壁に限局した痛みであっても、前皮神経絞扼障害ではなく、内臓疾患として精査が進むことがあります。
しかし、前皮神経絞扼障害は腹壁の皮神経の絞扼によって生じるため、内臓疾患とは病態が異なります。
内臓に明らかな異常が見つからない腹痛や、限局した圧痛を伴う腹壁痛では、腹壁由来の痛みとして前皮神経絞扼障害を候補に入れる必要があります。
腹痛・腹壁痛を皮神経からどうみるか|肋間神経前皮枝の分布から読み直す
腹痛・腹壁痛を皮神経からみるときに重要なのは、症状分布と動作による変化です。
腹直筋外縁付近の限局した圧痛や、体幹屈曲や伸展、起き上がり、腹筋が緊張する動作で痛みが増える所見があれば、肋間神経前皮枝の可能性を考えることができます。
内臓痛のように訴えられていても、指先で示せる限局点があるなら腹壁由来を疑うことができます。
さらに、神経分布部位への圧迫で症状がどう変化するのかを確認することで、考慮すべき部位は絞られます。
結論
前皮神経絞扼障害は、腹痛や腹壁痛を消化器疾患や機能性腹痛だけで理解していては捉えきれない病態です。
内臓に異常があることと、症状の原因がそこにあることは同義ではありません。
だからこそ、内臓疾患だけで判断せず、肋間神経前皮枝を含む皮神経の分布と、腹筋緊張や圧迫での変化をあわせて評価する必要があります。
腹痛の評価では、内臓所見だけでなく、腹壁の限局した圧痛や動作での変化をあわせてみる視点が重要です。
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