鎮痛姿勢とは何か
鎮痛姿勢とは、痛みに対して神経系が防御反応として選択している姿勢のことです。
臨床では、肩の高さ、骨盤の傾き、脊柱の配列、重心の偏りなどを見て、その姿勢自体を痛みの原因として理解したくなることがあります。
しかし、痛みがある患者様にみられる姿勢は、主な原因ではなく、防御反応として現れていることが少なくありません。
この視点を欠いたまま、姿勢だけを評価対象にすると、介入も結果だけを追うことになります。
痛みがあると姿勢は変わる
姿勢は単なる骨格の並びではありません。
どこに重心を掛けるか、どの筋をどの程度活動させるか、どの方向への動きを抑えるかを含めた、神経系の出力です。
痛みがあれば、末梢から入る情報は変わります。
その入力を受けた中枢神経は警戒を強め、筋活動、姿勢、可動域、回避行動といった出力を変化させます。
その結果として現れるのが、防御反応としての鎮痛姿勢です。
したがって、痛みがある患者様の姿勢変化は、構造異常としてみるより、神経系がいま採用している戦略として理解するほうが妥当です。
▶︎ 神経系の出力とは何か
鎮痛姿勢を無理に崩すと動作時痛につながる
防御反応として選択されている鎮痛姿勢を、背景を読まないまま無理に崩すと、身体はその動きを危険なものとして受け取りやすくなります。
その結果、動作そのものに対する警戒が強まり、動作時痛として現れることがあります。
ここで起きているのは、単に姿勢が悪いから痛いということではありません。
その動作に伴う入力に対して、神経系が防御的な出力を強めているということです。
したがって、動作時痛は、無理に動かされた結果として表面化した、防御反応のひとつとして読む必要があります。
▶︎ 動作時痛とは何か
鎮痛姿勢を無理に崩すと可動域制限にもつながる
可動域制限も、関節や筋肉の硬さだけで説明できるとは限りません。
神経系がその動きを危険と評価していれば、可動域そのものを抑える方向に出力が変わります。
そのため、防御反応として保たれている鎮痛姿勢を無理に変えようとすると、動きの制限が強まることがあります。
硬いから動かないのではなく、動かすことに対する警戒があるために、動きを止める出力が意識的および無意識的に選択されている場合があるということです。
したがって、可動域制限をみるときにも、組織の問題だけではなく、防御反応としての神経系の出力を読む必要があります。
▶︎ 痛みと可動域制限とは何か
姿勢を変えることを目的にした徒手療法は結果を追いやすい
姿勢を整える、骨盤をそろえる、アライメントを修正するといった考え方は、見た目の変化が分かりやすく、介入の目標として設定しやすいものです。
しかし、その姿勢が神経系の出力として成立しているなら、姿勢を変えること自体を目的にした徒手療法は、結果にフォーカスしていることになります。
本来みるべきなのは、なぜその姿勢が必要になっているのかです。
その姿勢を主な原因として扱うのか、それとも防御反応としての鎮痛姿勢として読むのかで、評価も介入も大きく変わります。
この問題は、姿勢、構造、生体力学を主軸に痛みを説明するPSBモデルの限界とも重なります。
鎮痛姿勢を読むなら末梢神経と中枢神経をみる
姿勢を結果としてみるなら、臨床で注目すべき場所は別にあります。
ひとつは末梢神経であり、どのような状態で、どのような入力を中枢へ送っているのかを考えなければなりません。
もうひとつは中枢神経です。
脳と脊髄が、その入力をどのように処理し、どの程度警戒し、どのような身体の反応を出力しているのかという視点が必要です。
慢性疼痛では、組織所見だけでは説明しきれない痛みが続くことがあります。
そのため姿勢の意味も、単純な構造問題としてではなく、末梢神経の状態と入力、中枢神経での処理、その結果としての出力という流れで理解する必要があります。
研究も痛みで姿勢制御が変わることを示している
この視点を支える研究があります。
この研究では、健常者の下肢筋に実験的な痛みを生じさせ、痛みそのものが姿勢制御に与える影響を調べています。
その結果、痛みがあると静止立位での重心動揺が増え、予測できない外乱のあとに元の平衡姿勢へ戻るまでの時間も延びました。
つまり、痛みは姿勢の安定性を低下させ、身体の平衡戦略そのものを変化させることが示されています。
重要なのは、この研究が「姿勢が崩れているから痛い」と示したものではない点です。
むしろ、痛みがあることで神経系の出力としての姿勢が変わると読むほうが自然です。
そのため、痛みがある患者様の姿勢変化は、構造異常そのものではなく、防御反応として理解する必要があります。
結論
鎮痛姿勢とは、痛みに対して神経系が防御反応として選択している姿勢です。
痛みがある患者様にみられる姿勢は、見た目の問題そのものではなく、末梢神経の状態と入力、中枢神経での処理、その結果としての身体の反応として現れていることがあります。
そのため、姿勢だけを主な原因として扱い、無理に変えようとすると、動作時痛や可動域制限として防御反応が強まることもあります。
臨床で優先すべきなのは、姿勢を整えることではありません。
なぜその姿勢が必要になっているのかを読み、どの入力に対して警戒が続いているのかを、神経系の視点から考えることです。
痛みがある患者様の姿勢をみるときは、形の評価ではなく、防御反応としての意味を読む視点が重要です。
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