扁桃体とは何か|情動的な重要性とサリエンス検出を担う大脳辺縁系の解剖生理学
扁桃体は、側頭葉深部の海馬前方に位置するアーモンド形の神経核群であり、サリエンス(情報の重要度や目立ちやすさ)の検出や、恐怖、不安といった情動的に重要な刺激の評価に関わる中心的な構造として広く知られています。
外界からの視覚や聴覚、身体感覚などの情報が集約される外側核や基底外側核、そして自律神経系やホルモン分泌系への出力を担う中心核などで構成されています。
潜在的に脅威と感じる刺激を速やかに検出して評価し、逃避・闘争・防御反応に必要な身体の反応を引き起こすシステムにおいて、重要な役割を果たしています。
この機構は、恐怖反応を抑制する新たな安全学習を形成するプロセスや、状況変化に応じた柔軟な行動選択を可能にするための情動的な基盤として機能しています。
扁桃体の脳内ネットワークにおける役割|慢性疼痛における情動・記憶機能変化
扁桃体は、サリエンスネットワークやデフォルトモードネットワークを含む大規模回路と密接に協調し、痛みの不快感やサリエンス評価の統合に関与しています。
持続的な侵害入力に伴い、内側前頭前野から扁桃体への制御異常が報告されているほか、動物研究では扁桃体内部のシナプス伝達効率の変化が示されています。
これにより、一部の慢性疼痛状態ではサリエンスネットワークの過剰駆動を招き、侵害受容信号に対する情動的な重要度の付与が過剰になる可能性が示唆されています。
一部の予測処理モデルの観点からは、扁桃体に関連するネットワークの機能変化は、予測と実際の信号との間に生じる予測エラーの確信度を不適切に高める要因になると考えられています。
ここでいう確信度とは、脳が予測と実際のズレをどれほど重要と判断するかという指標を意味します。
このエラーによって不適切な判定が下されることが、過去の記憶に基づく恐怖や不安の予測を優位にし、身体の反応として慢性的な疼痛体験を維持する一因となり得ると解釈されています。
慢性疼痛時における扁桃体の変化と画像研究の限界
機能画像研究から得られた客観的な知見を紹介します。
この研究では、健常者への実験的痛み刺激と、慢性疼痛患者様における臨床的な痛みを対象とした過去の脳機能イメージング(fMRI・PET)データをメタ解析し、扁桃体の活動ピークの位置を検証しています。
解析の結果、健常者に対する一時的な実験的な疼痛刺激では、主に扁桃体の表在領域や、純粋な侵害受容信号を受け取る中心内側領域に活動が認められました。
それに対して、慢性疼痛患者様では外側基底核領域に顕著な活動の収束(左扁桃体において89%の確率)が認められました。
扁桃体の外側基底核領域は、前頭前皮質などの高次皮質領域と密な相互線維連絡を持ち、恐怖条件付けや連合学習において「ゲートキーパー」として機能する部位です。
つまり、慢性痛患者様においてこの領域が優位に活動している事実は、長引く痛みが単なる末梢からの感覚入力ではなく、脳内における不安、恐怖、予測、破滅的思考といった認知・情動的な上書きと強固に結びついていることを神経解剖学的に証明しています。
組織への機械的介入に終始せず、扁桃体を中心とした中枢神経系における痛みの評価プロセスや、痛みに伴う過度な警戒を紐解くアプローチがいかに不可欠であるかを示唆しています。
The human amygdala and pain: evidence from neuroimaging
Simons LE, Moulton EA, Linnman C, Carpino E, Becerra L, Borsook D. (2014).
この研究では、慢性疼痛における扁桃体と前頭前野を含む情動関連ネットワークの変化について、神経画像研究および基礎研究の知見を統合的に検討しています。
結果、慢性疼痛では扁桃体活動の亢進や、前頭前野による情動制御機能の低下が認められ、痛みの情動的側面や意思決定機能に関連するネットワークの変化が示されました。
また、動物研究では扁桃体内部のシナプス伝達効率の変化や神経可塑性の亢進が確認されており、侵害受容情報に対する情動的な重要度の付与が強まる可能性が示唆されています。
Forebrain pain mechanisms
Neugebauer V, Galhardo V, Maione S, Mackey SC. (2009)
結論|慢性疼痛における扁桃体の臨床的な位置づけと末梢神経へのアプローチ
扁桃体周辺の客観的な画像変化は、それ単体で痛みの主因を断定する根拠にはなりません。
慢性疼痛時における扁桃体関連ネットワークの機能異常は、脅威予測の偏りや、注意の囚われといった過度な警戒状態を反映している可能性があります。
アプローチにおいて、侵害性の高い感覚入力負荷を軽減することは、過活動に陥った情動処理系やサリエンス検出システムへの過剰な入力を減らす意図として重要と考えられています。
脅威性の低い感覚入力環境を整え、脳の予測システムを安心へと導くプロセスを支援することは、扁桃体関連ネットワークの過活動を軽減するために有用となる可能性があります。
<a href="https://dnmjapan.jp/brain-regions-chronic-pain/">▶︎ 脳部位と慢性疼痛を吟味する</a>
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