姿勢・構造・バイオメカニクスは痛みの原因ではない。

姿勢・構造・バイオメカニクスは痛みの原因ではない。

このような話を耳にしませんか?

「脊柱や骨盤が歪んでいるので、身体の歪みを整えて痛みを軽減させる。」

または、

「筋バランスが悪いので、弱い筋を鍛えたり、緊張した筋をストレッチして痛みを減らしましょう」と。

PSBモデルとは?

このように姿勢や構造を修正することを目的としたモデルのことを、PSBモデル(姿勢-Postural・構造-Structural・生体力学-Biomechanical)と言います。

一般的にPSBバランスが崩れると、
腰痛/LBP(LowBackPain)の原因になると言われています。

例えば、


→身体の構造的な不均衡、非対称性、ミスアライメントが、

→脊柱に過度の機械的/物理的ストレスを与え、

→変性/損傷または機能不全を筋骨格系にももたらし、

→腰痛などにつながる。


と言われています。

脊柱の湾曲具合や非対称性や可動域、骨盤の左右高さの違いや角度、下肢の長さの左右差などがこの概念に当てはまります。

それでは、姿勢や構造と腰痛との関連性をそれぞれ見ていきましょう。

脊柱と腰痛

脊柱前弯や後弯や側湾のようなカーブの増加があるかどうか、静的な姿勢検査、脊椎の可動性の低下、局所的な腰椎の角度、軽度の椎間板変性、椎間板ヘルニア、狭窄症は疼痛と関連性がありません。MRIなどの画像所見からわかる変化や変性は加齢によるものです。

「10代の若者における姿勢的な脊椎非対称性、胸椎後弯、腰椎前弯と、成人における腰痛の発症との間には関連性がなかった (Papaioannou et al., 1982; Dieck, 1985; Poussa, 2005)。」

「成人において、腰椎前弯の度合いおよび側弯の存在は、腰痛との関連を示さなかった (Dieck, 1985; Norton, 2004; Haefeli et al., 2006; Christensen & Hartvigsen, 2008, syst. rev.)。」

 「分節間の局所的な腰椎の角度または可動域の違いもまた、将来における腰痛の進行との関連を示すことはできなかった(Hellsing,1988b;Burton&Tillotson,1989; Hamberg- van Reenen, 2007, syst. rev.; Mitchell et al., 2008)。」

X線とMRIの所見が将来の腰痛や障害に対して予測的な価値がないという強力なエビデンスがある(Waddell&Burton,2001,review)。」

「それ以来、いくつかの研究は脊椎/椎間板変性と腰痛との間の明確な関係を示すことができなかった。(Savage et al., 1997; Borenstein et al., 2001; Carragee et al., 2005; Jarvik et al., 2005; Kanayama et al., 2009; Kalichman et al., 2010). 」

  「20〜71歳、34,902人の双子のデンマーク人の研究では、より若い衆者とより高齢者との間の腰痛頻度に有意差はなかったが、(Leboeuf-Yde et al., 2009)、高齢者ではより大きな変性や変化が予想される。」 

  「椎間板変性と腰痛間との関係を示す研究では、腰痛の遺伝性に関与する遺伝子もまた椎間板変性に関与することが示唆されている。つまり、痛みは脊椎の機械的変化によるものではなく、共通の生物学的要因によるものである可能性がある(Battie et al., 2007)。」

「これらの遺伝的要因は、背中の形状とは関連していないが個人間のコラーゲンおよび免疫修復システム/プロセスの変化に関連している(Paassilta et al., 2001; Valdes et al., 2005; Battié et al., 2009; Videman, 2009a)。 」

「 双子の中では、脊椎変性の47〜66%が遺伝的および共通の環境要因によるものであることが実証されているが、努力を要する職業またはスポーツ活動によって引き起こされる肉体的ストレスで説明できる変性は2〜10%にすぎない。(Battié, 1995; Battié et al., 2009; Videman et al., 2006, 2007)。」

「神経根痛患者のMRI研究では、椎間板変位、神経根痛の増強、神経圧迫の程度が、患者の主観的な疼痛の大きさまたは機能障害のレベルと相関しないことがわかった (Karppinen et al., 2001; see also Beattie et al., 2000)。しかし、重度の神経圧迫、椎間板脱出と遠位の脚の痛みとの間には強い関連がある (Beattie et al., 2000)。

「重度の脊柱側弯症と腰痛、もしくは実際にある神経根圧迫と脚の痛みとの間に関連性がある可能性がある(Beattie et al., 2000; Haefeli et al., 2006)。」

「MRIスキャンを用いた前向き研究では、5年間にわたる腰痛の再発は、悪化する脊椎損傷と関連していないことが示された (Carragee et al., 2006)。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

骨盤と腰痛:

骨盤の角度や非対称性、腸骨に対する仙骨の相対的なポジションと疼痛との関連性はありません。

骨盤の傾斜/非対称性や仙骨外側底角と、腰痛との間に相関性はない(Dieck, 1985; Le-vangie, 1999a,b; Fann, 2002; Knutson, 2002)。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

肩と痛み:

肩関節の画像所見と疼痛との関連性はありません。

「一部または全層の肩回旋腱板断裂は、40歳以上の無症状の被験者の1/3に見られる(Sher et al., 1995)。」

無症状のボランティア100人(19〜88歳)の評価では、肩鎖関節の変形性関節症が肩の3/4に存在し、1/3が肩峰下骨棘を有していた。…peribursal fat plane(膜)の変化や、肩峰下滑液包内の液の存在も認められました。関節液がほぼすべての被験者で観察された(Needell et al., 1996)。」

肩関節の病態力学は、症状のある人と無症状の人の両方で類似していることがわかった(Yamaguchi et al., 2000)。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

脚の長さと腰痛:

脚の長さの左右差と疼痛の関連性はありません。

「腰痛の原因としての脚の長さの違いは、過去30年間議論されてきました。 人々の約90%が平均5.2mmの脚長差を持っていると推定されている。 」

「エビデンスでは、その差が約20mmに達するまで(Gurney, 2002, review; Knutson, 2005, review)、大部分の人にとって解剖学的な脚の長さの不均衡は、臨床的に有意ではないことを示唆している(Papaioannou et al., 1982; Grundy & Roberts, 1984; Dieck, 1985; Fann, 2002; Knutson, 2005, review)」

「腰痛を経験している人と無症状の対照者とを比較したいくつかの初期の研究は相関関係を示唆しているが(Giles & Taylor, 1981; Friberg, 1983, 1992)、より関連性のある前向き研究では、脚の長さの不均等と腰痛との間に相関関係は見られなかった (Hellsing, 1988a; Soukka et al., 1991; Nadler, 1998)。」

「股関節部の骨折または置換術による脚の長さの著しい変化を示した患者の研究では、そのような変化は手術後数年で評価された腰痛と関連していなかった。(Gibson et al., 1983; Edeen et al., 1995; Parvizi et al., 2003)。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

足と腰痛:

足からの運動連鎖によって姿勢を整えること、足の装具による矯正と疼痛予防との関連性はありません。

「PSB検査では、足の評価が含まれることがあります。ここでの理論的根拠は、身体が載る物理的基盤のいかなる問題も、膝や腰などの機械的連鎖より更に上の構造に影響を与える」

足の力学を修正しても腰痛の予防に効果はない。 」

「足のバイオメカニクスに関しては、装具による矯正が腰痛の予防に効果がないという強いエビデンスがある(Sahar et al., 2007, syst. rev.)。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

筋肉と腰痛:

ハムストリングスや大腰筋の硬さは、腰痛を起こすと予測できません。

「大腰筋の硬さ、四肢やハムストリングの硬直性についての前向き研究もまた、腰痛の将来のエピソードを予測できない(Hellsing,1988c; Nadler,1998)。」

「最近のシステマティックレビューでは、体幹筋の低い持久力は腰痛と関連しないという強いエビデンスを見出した (Hamberg-van Reenen, 2007, syst. rev.)。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

体重と腰痛:

体重が増えると腰痛になりやすいと言われていますが、実際は異なるようです。

「驚くべきことに、過体重/肥満のような全身の変化でさえも腰痛との関連性が低い (Leboeuf-Yde, 2000, syst. rev.)。」

「一般的な考えとは反対に、最近の研究では、より重い体重(平均で約30ポンド/約13キロ)による累積的または反復的な負荷が椎間板に有害ではないことが示されている。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

妊娠と腰痛

妊娠中の腰痛における腰椎前弯と骨盤傾斜の増加は、疼痛と関連性がありません。

妊娠中の脊柱前弯および矢状面の骨盤傾斜の明らかな増加でさえ、腰痛との関連性を欠いている (Franklin & Conner-Kerr, 1998)。」

「妊娠中の腰痛発症のより強い予測因子は、BMI値、過度可動性や無月経の過去、以前あった腰痛、社会経済的低レベル、胎盤の後基底部の位置、胎児の体重、脚への放射線照射に伴う腰痛であった (Orvieto et al., 1990; Mogren & Pohjanen, 2005)。」

The fall of the postural–structural–biomechanical model in manual and physical therapies: Exemplified by lower back pain. Eyal Lederman

まとめ

運動連鎖や筋連鎖を活かす、足から整える、姿勢やアライメントを左右対称的に正しくする、構造をバイオメカニクスから捉える。

これらの事柄は、動きやすさが重要なスポーツや、日常動作が難しくなった患者さんのリハビリには大切だと思います。

しかし、姿勢・構造・バイオメカニクスは、疼痛との関連性は低いというのがサイエンスの答えです。

例えば、仙腸関節はほぼ動かないという研究や、MRI所見と疼痛との関連性はほぼないという多数の研究があります。

これらの研究から、クライアントの疼痛を無くすことと、動きやすさを促進することは「分けて考える」方が良いということが分かります。

一般的に言われている下記のような理論やアプローチでは、痛みはなくならないというのがサイエンスの答えです。

例えば…


・足を整えて、骨盤の歪みを整えて、腰痛や肩こりを無くす。

・運動連鎖がスムーズになるように、筋バランスを整えて首、肩、腰の痛みを無くす。

・特定の筋肉の弱さ、硬さ、非対称性に注目し、筋肉を鍛えたり、ストレッチして痛みを無くす。

・エクササイズで身体のアライメントが整い、左右対称的に使えるようになるから痛みが減る。

・大腰筋やハムストリングの筋緊張をなくしたり、ストレッチで柔軟性を増やし腰痛を無くす。

・下肢の長短の左右差を整えて、腰痛や肩こりを無くす。

・軽度の椎間板ヘルニア、椎間板の変性、脊柱管狭窄症は手術すると痛みがなくなる。

・脊柱の亜脱臼をスラストで整え、側湾、前弯、後弯バランスを整え、内臓や全身の痛みを無くす。


PSBモデルは、このような概念や評価において、不必要な複雑さをもたらしてしまいます。

しかし、このような理論やアプローチでも、腰痛が軽減したりします。

それは、「末梢神経を動かす」ことによる影響があります。

神経から考える。

末梢神経は関節運動を行うことで、スライドしたり、伸びたりと動きます。

それによって末梢神経に調節つながる血管配列が変化して神経の血流が促され、神経のケアや余計になった物質の排出に繋がります。

それは神経からの侵害受容信号を減らします。

動くことは薬」という言葉があるくらい、左右対称的に身体を動かすことは、末梢神経にとって大切なことなのです。

つまり、左右対称な構造に変えようとするのではなく、左右対称的に身体を使うということが疼痛軽減に関与します。

利き目や利き手があり、内臓の左右差、骨の元からの非対称性などがあります。身体は対称的に見えますが、非対称な構造という見方もできます。

さらに、先程のような一般的なアプローチには、心理的な安心感や期待感、プラセボ効果、固有受容感覚の刺激による運動出力の変化(動きやすくなる)、自律神経の変化による血流の変化、内因性オピオイドなども疼痛軽減の理由として考えられます。

DNMの考え方

DNMでは、構造や姿勢を評価対象にはしていません。

相手の話をよく聞き、痛みを感じる部位、どのような時に痛みを感じるのか、その部位に関連した可動域の左右差と、それに伴う個人的な感覚を基準にして、アプローチの方法や末梢神経や皮神経の部位を選びます。

フィジカルな面では、末梢神経や皮神経の絞扼、神経の血管とその血流、神経周囲の空間、神経管神経による侵害受容、脊髄反射による筋緊張、内因性オピオイドや下行性調整、ニューロマトリックス理論(痛みは脳から生まれる個人的な経験)を考慮しています。

そして、中枢神経の心理的・社会的(サイコ・ソーシャル)ストレスという面も考えています。安心、安全、リラックス、優しさ、話をよく聞く、穏やかな言葉かけや触れ方も大切にしています。

このような疼痛に特化した神経系アプローチと、姿勢構造アプローチをどのように共存させたらいいのでしょうか?

・侵害受容を減らすための神経系アプローチ

・動きやすくするための姿勢、構造、バイオメカニクスアプローチや運動療法。(ただし痛みを与えず、サイエンスに基づくアプローチに限る。)

この二つを分けて考え、融合させて行うことはクライアントの健康や日常動作にとってプラスになると考えられます。

侵害受容は可動域の減少や、筋動員を変化させてしまいます。

侵害受容をなくしてから、姿勢や構造をバランスよくしていくことが望ましいと思います。