クラニオセイクラルセラピー/頭蓋仙骨療法の効果は、頭部皮神経と神経系への影響によるもの

クラニオ・セイクラルセラピーの効果は
頭部皮神経と神経系への影響によるもの

脳脊髄液

脳脊髄液(CerebroSpinal Fluid/CSF)とは、脳室、クモ膜下腔、脊髄くも膜下腔、にある細胞外液です。脳や脊髄の保護などの役に立っています。髄液や脳漿とも言われています。

クラニオセイクラルセラピー 頭蓋仙骨療法

Cranio-Sacral Therapy (CST) /頭蓋仙骨療法とは、脳と脊髄の周りの脳脊髄液の循環を促し、脳や脊髄への酸素・栄養供給、老廃物の排泄を行うという徒手療法です。

一次呼吸または頭蓋仙骨リズムと呼ばれる、固有のリズムがあり、1分当たりと1~6サイクルで循環しているとされています。

頭蓋仙骨セラピストは、指でこのリズムを感じるように訓練されています。

セラピストはそのリズムに「変化」を見つけた場合、それを特定のテクニックのやさしい圧力5~20gによって、「調和させる」ことが可能だと言われています。

脳の硬膜と脊髄と仙骨は可動性があり、リズミカルに変動していて、一次呼吸と合わせて全身で触診できると言われています。

そのリズムが乱れると、健康にさまざまな影響をもたらすというのが、頭蓋仙骨療法・クラニオセイクラルセラピーという徒手理論です。

しかし、下記論文や研究をみていくと、科学的根拠が曖昧であることと、徒手療法でそこまで影響を与えられるのか?という所に疑問があります。

 


脳脊髄液と呼吸と心拍

脳脊髄液の主な原動力が吸気だという研究結果があります。また心臓による流れの影響もあります。

「結果は、特に強制呼吸中に行われた場合、吸気が健康な人を対象にした脳脊髄液の循環動態の主な原動力であるという明白な証拠を提供する。」

「我々はまた、非常に低い振幅であり、被験者によって本質的に変わりやすいが、より高い周波数で心臓に関連した脳脊髄液流の成分を見出した。」

Inspiration Is the Major Regulator of Human CSF Flow.

Steffi Dreha-Kulaczewski, Arun A. Joseph, Klaus-Dietmar Merboldt, Hans-Christoph Ludwig, Jutta Gärtner and Jens Frahm

一次呼吸への触診

一次呼吸は確実に触診することはできず、その触診は施術者自身の呼吸の影響を受けるという研究結果です。

「オステオパシーの一側面であるクラニアル・コンセプト(CC)は、触診しなければならない非常に微妙な変化を扱います。」

「CCの主な原理の1つは、一次呼吸メカニズム(PRM)であり、これは、心拍数および呼吸数とは無関係の屈曲相および伸展相と呼ばれる律動的周期で起こる明白な生理学的現象であると仮定されている。」

「一次呼吸メカニズムの触診は、クラニアルコンセプトの評価における最初のステップの1つである。」

「49人の健康な被験者が同時に2回、(頭に1回と骨盤に1回)触診された。」

「結論として、一次呼吸メカニズム周期は確実に触診することはできず、特定の条件下では検査者の呼吸数の影響を受けた。これらの結果は一次呼吸メカニズムの背後にある仮説を支持しない。

Inter- and intraexaminer reliability in palpation of the “primary respiratory mechanism” within the “cranial concept”.

Sommerfeld P, et al. Man Ther. 2004.


頭蓋縫合の閉鎖

頭蓋縫合は、約20歳から始まり約40~60代で完全に融合するという研究結果です。40代以上の方はほぼ頭蓋骨は動かないと認識した方が良いと考えられます。

※S1〜S4は矢状縫合の部位、C1〜3、L1〜3は冠状縫合の部位。

「頭蓋内矢状縫合の閉鎖は20〜29歳で始まり、S1、S2、S3では40〜49歳で完了し、S4では30〜39歳で完了することがわかった。」

「頭蓋内冠状縫合の閉鎖は、20〜29歳で始まり、C1およびC2では40〜49歳で完了し、C3では50〜59歳である。」

「Moondra A. K.(2000)は、男性46〜50人、女性56〜60人の間で頭蓋内閉鎖を報告した。」

「SchmidtおよびModi’sによれば、40〜60歳の間に完全な閉鎖が起こる。」

「A. Nandyは、閉鎖が25〜45歳の間であると述べているが、Shettyは、頭蓋外冠状縫合における融合の消滅を示している。」

「縫合閉塞は、頭蓋外よりも頭蓋内表面で早く始まります。」

Observation on the Closure of Cranial Sutures to Estimate Age from Skull Bones in Jharkhand Population.

Ajay Bhengra1, Kumar Shubhendu2, Tulsi Mahto3, A.K. Chaudhary4


頭蓋内圧の変化

頭蓋内圧を変化させるという理論も、クラニオセイクラルセラピーにはあります。しかし、500gを超える力でのみ、頭蓋骨間に0.3mmの動きがありました。しかし、それでも頭蓋内圧に変化はありませんでした。

頭蓋仙骨療法における圧力2~20gよりも100倍近く高い力でのみ、頭蓋縫合が動くという結果です。

つまりクラニオセイクラルセラピーでは頭蓋骨は動きませんし、頭蓋内圧も変化しません。

「目的: 頭蓋冠部の縫合を物理的にマニュピレーションすると、冠状縫合の動きに伴って頭蓋内圧(ICP)が変化するかどうかを判断すること。」

「背景:頭蓋仙骨療法(クラニオセイクラルセラピー)は、頭痛や発達障害に至るまでの状態を治療するために使用されます。しかしながら、このテクニックの生物学的前提は理論化されているが、文献では実証されていない。

「方法: 13匹の成体ニュージーランド白ウサギに麻酔をかけ、冠状縫合の両側にマイクロプレートを取り付けた。」

「冠状縫合を横切るように5、10、15、20gの破壊的な負荷(頭蓋仙骨前頭リフトテクニックをシミュレートを順次加えた。」

「1匹の動物は100から10,000gの間の破壊的な負荷を受けた。」

「結果: 破壊的な力を受けた一匹の動物では、冠状縫合を横切る動きは500gの力まで見られなかった。その力で0.30mmの分離を生じたが、一致する頭蓋内圧の変化はなかった。

「結論: 頭蓋仙骨前頭リフトテクニックを行う際に臨床的に使用されていたものと同様な低負荷でも、ウサギの冠状縫合の動きまたは頭蓋内圧に有意な変化は見られなかった。」

Craniosacral therapy: the effects of cranial manipulation on intracranial pressure and cranial bone movement.

Downey PA1, Barbano T, Kapur-Wadhwa R, Sciote JJ, Siegel MI, Mooney MP.


触診への信頼性

頭部と足への触診で頭蓋仙骨リズムを測れるかどうかという研究です。しかし、結果はその理論を支持できないし、触診の確実性も支持できません。

「背景と目的:この研究の主な目的は、頭と足の頭蓋仙骨周期の触診中に得られた測定における評価者および評価者間の信頼性を決定することでした。」

「測定するために頭部と足を同時に触診して頭蓋仙骨周期を比較した。28人の成人被験者と2人の頭蓋仙骨検査官がこの研究に参加した。」

「結論と考察: 結果は、頭蓋仙骨療法の根底にある理論を支持するものでも、頭蓋仙骨の動きを確実に触診できると支持するものでもない

Simultaneous palpation of the craniosacral rate at the head and feet: intrarater and interrater reliability and rate comparisons.

Rogers JS1, Witt PL, Gross MT, Hacke JD, Genova PA.

専門の大学を出たオステオパスが、頭部と仙骨に触れ頭蓋仙骨リズムを触診するという研究です。

しかし、支持できるに足る結果はなく、他にも信頼性に足る研究がないということでした。二つの研究から、触診の不確実性という問題が理解できます。

「頭蓋仙骨リズム(CRI)の触診は、これらのテクニックを用いた診断および治療に使用される基本的な臨床テクニックである。」

「頭蓋仙骨リズム速度の触診への信頼性を確立する研究はほとんどなされていない。」

「目的: 本研究は頭蓋仙骨リズム速度の触診に対する検査員および検査員間の信頼性を確立し、頭蓋と仙骨の同時運動を説明するために使用される頭蓋仙骨相互作用の “コアリンク”仮説を調査することを目的とした。」

「対象:診断と治療のトレーニングを受けて大学を卒業した2人の認定オステオパシーが、頭蓋骨テクニックを使用して11人の健常者を触診した。」

「方法: 検査官は、各被験者の頭部と仙骨の頭蓋仙骨リズムを同時に触診した。」

「結果: 頭蓋領域における頭蓋仙骨療法およびオステオパシーの支持者によって伝統的に保持されているように、「コアリンク」仮説の構成概念の妥当性を支持することができないという結果。」

Intraexaminer and interexaminer reliability for palpation of the cranial rhythmic impulse at the head and sacrum.

Moran RW1, Gibbons P.


システマティックレビューによる科学的根拠の確認

システマティックレビューとは、「文献をくまなく調査し、ランダム化比較試験(RCT)のような質の高い研究のデータを、出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き、分析を行うことである」Wikipediaより。

クラニオセイクラルセラピーを支持する証拠は不十分で、有効性を評価できなかったというシステマティックレビューです。

「目的: 本研究の目的は、治療的介入としての頭蓋仙骨療法の科学的根拠を批判的吟味することであった。

「主な評価基準: 関連する評価基準を用いた三次元評価フレームワーク。(A)頭蓋仙骨介入および医療的効果。(B)頭蓋仙骨評価の妥当性。(C)頭蓋仙骨システムの病態生理学。」

「結論: このシステマチックレビューと批判的評価は、頭蓋仙骨療法を支持するには不十分な証拠を見出した。決定的に有効性を評価することができる研究方法は今日まで適用されていない。」

A systematic review of craniosacral therapy: biological plausibility, assessment reliability and clinical effectiveness.

Green C1, Martin CW, Bassett K, Kazanjian A.


クラニオセイクラルセラピーによる幼児への事故

生後三か月の幼児に対する頭蓋仙骨療法で死亡事故がありました(海外)。

「健康な生後3ヶ月の少女は、いわゆる頭蓋仙骨療法による頸椎と胸腰椎のマニピュレーションの後に死亡しました。」

「首と背骨の持続的で強い深い屈曲の間に、幼児は便失禁、無緊張と無呼吸を発症し、その後に心停止を引き起こしました。」

「身体検査、追加のMRI検査および解剖により、乳児はおそらく頸椎の局所神経血管障害または機械的に誘発された呼吸器系の問題の結果として死亡したことが示された。」

「これは、首を強制的に操作した後に死亡した乳児の2番目の報告例です。」

「脊柱の強制的なマニピュレーションの有効性と安全性についての科学的な証拠があるまで、我々は新生児と幼児におけるこの治療に対して忠告します。

Death of an infant following ‘craniosacral’ manipulation of the neck and spine.

Holla M1, Ijland MM, van der Vliet AM, Edwards M, Verlaat CW.


頭部の皮神経と神経系への影響

クラニオセイクラルセラピーのような軽いタッチを頭部に行うアプローチは、皮神経と神経系の反応が考えられます。 頭皮の皮神経への入力と、顔や頭皮から三叉神経節への入力、そして中枢神経でその入力情報が処理され、反射的な運動出力を変化させます。

結果、頭皮の血流、皮神経のトンネル(筋肉など)、他の部位の運動出力の変化を促します。 さらにその刺激が「良いもの」だと脳が処理すれば痛みの閾値が下がる可能性もあります。

■DNMのDiane Jacobsブログより

「1.ニューロマトリックス理論によれば、”身体自己ニューロマトリックス”は、”知覚、情動、および認知神経モジュールを含む”。」

「時間が経つにつれて、システムへの入力はこのニューロマトリックスによって処理され、ストレス調整、行動プログラム(反射運動活動を含む)、痛みの知覚などの出力が行われる。」

「3つの「運動」系が関与している:随意性、自律性、神経内分泌性。それらは独立的に/相互依存的に/継続的に(1つの例外を除いて:睡眠中の随意的システム)関与する。」

「頭部に一連の治療として手を当てることは、患者の信念や経験などの複数の歴史的要因に応じて、ニューロマトリックスによって有用または有害であると解釈される。」

「少なくとも、頭部(または他の場所)への徒手療法は、主に神経系への感覚-識別的な入力であり、度々感作されるため、非侵害受容性で、脅威がないことが不可欠。私たちの介入はニューロマトリックス理論に基づけば、5グラムで変化を促進するのに十分である。」

「2. 後頭部に接触すると機械受容器を刺激する。機械的に刺激された感覚情報は、皮神経(後頭神経、上頚部脊髄神経根からの皮枝)を通って後根神経節に入る。」

「そこから、良性の外受容性(身体の外側から生じる)入力は、CNSによって、脊髄レベルと感覚皮質レベルの両方で処理される。」

「この入力の一部は無意識のうちに処理され、反射的な運動出力(例えば、頭皮、関連する皮神経トンネル、身体の他部位の外側への血流増加)をもたらす。」

「そして、残りの入力は、患者の感覚皮質/意識的な気づきによって評価され、脳のあらゆる部位をフィルタリングし、中枢神経系の認知-評価や動機付けに影響を与えるという側面と、さらにすべての運動出力部分にも到達します。」

「三叉神経節は、頭部/顔の正面の皮膚から外受容性入力を受け取り、そして処理する。三叉神経節は、後根神経節に似ているが、中枢神経系構造でもあり、他のCNSプロセッサやCNSエフェクターと密接に関係している。」

「3.あらゆる種類の治療的状況の身体的接触は、神経系の変化を促進する可能性がある。

http://humanantigravitysuit.blogspot.com/2007/01/?m=1


まとめ

これらの研究から一次呼吸や頭蓋仙骨リズムは、被験者の吸気や心臓によっても変化することが分かりました。

またその頭蓋仙骨リズムは、プロの専門的な施術者でも触診して確認することはできません。

さらに頭蓋縫合は40代以降は大体融合しており頭蓋骨は動きませんし、500g以上の圧力でないとその縫合は動きませんし、動いたとしても頭蓋内圧は変化しないということが分かります。

しかし、穏やかなタッチによるクラニオセイクラルセラピーで体調が良くなる人がいるのも事実です。

では一体何がその機序になっているかというと、頭部の皮神経と中枢神経の変化によるものです。

頭部や顔面の皮神経への穏やかな刺激入力は、反射的な運動出力を変化させ、頭皮の血流、皮神経のトンネル(筋肉など)、他の部位の運動出力の変化を促します。

また、その刺激が「良いもの」だと脳が処理すれば痛みの閾値が下がる可能性もあります。これはDNMと同じ考え方です。

また内臓マニピュレーションと同じような機序だと考えられます。

サイエンスで考えると様々な効果のあるアプローチの本当の理論が見えてきます。

アプローチが悪いわけではありません。理論が古いというだけなのです。

だからこそ、最新の理論を常に学び続け、理論の刷新を行う努力がセラピストには必要です。